65.魔力覚醒 後編
「ホラホラおいで!次は誰?」
「人数いるんだからはやくはやく!」
ディオスとクロイスはパタパタと腕を振り、広がったローブの裾をはためかせる。
しかし騎士達は身じろぎするばかりで、その場に立ち竦んでいた。
「あのような火や雷が身体から噴き出るなど...」
「まるで魔物か神だ」
「我々は人間で無くなるのか」
保守的な騎士達は未知の脅威に拒絶感を隠せない。
長年信じて来たものは血の滲むような鍛錬と己の肉体一つだったのだ。いきなり魔法や魔力なんてふわふわとした概念に容易く馴染めるはずがない。
その上、普段から戦闘狂じみた奥方様の反応なんぞでは何の参考にもならない。あの人はおそらく夫の髪を多少燃やそうが「すまん!」と笑い飛ばすだろう。
ならばどう考えても、危機感に満ちた辺境伯殿の反応がまともというものだ。
「...じゃ、次は俺かな。元聖騎士繋がりって事で」
見かねたイズラールが双子の前に進み出る。
彼らは「オッケー!」と軽く手を握った。
「軽いフリして面倒見イイトコは変わんないネ、イズラール?」
「頼れるお兄ちゃんってカンジ!」
「あはは...、やっぱ俺アンタら苦手だわ」
見透かすような言葉にイズラールが苦笑いを浮かべた瞬間、彼は息を詰まらせる。
未知の感覚に侵食されて思わず身を引けば、手のひらからびゅわっ!と風が巻き起こった。
「うお...っ!?」
薄紫の吊り目が見開かれ、彼の三つ編みがふわりと浮き上がる。
「風だネ、便利な魔力だヨっ!」
「魔力量はそこそこ!使いようカナ?」
きゃは、と笑う二人の目の前で驚きを隠せないイズラールが「ほんとに出ちゃったよ...、驚きだね」と小さく呟く。
そして彼は振り向きざまに「案外カンタンなもんだね、まだ怖い?」と軽く騎士達に笑いかけた。
「何を、怖くなどないわ!」
すると不安げに見守っていた騎士達が一転して怒鳴り返す。彼らはごくりと唾を飲むと、意を決して前に進み出た。
「次は私に」
「その次は俺だ」
「いつまでも見ているわけにはいかん」
脳筋騎士達にとって、魔力などという未知が恐ろしくない訳がない。しかし元傭兵の若造に続かぬ臆病さなど、騎士道のプライドが許さないのだ。
ええいままよ、とばかりに手のひらを差し出す。
「じゃ、やるネ?」
そして、手を取られた一人が流れ込む感覚に「ぐっ!?」と呻き声を上げる。
...が、手からは何も出なかった。
「...失敗か...?」
もしやこの後、危険な暴発が起こるのでは。
恐る恐る騎士が顔を上げる。
だが双子は笑って「ううん、成功ダヨ」と彼の手を取って訓練場の砂の地面に付かせた。
妙な体制を取らされた騎士は怪訝な顔をする。
「あの、これはいったい...」
「ところでキミって胸派?お尻派?」
「は!?」
突然聞かれた下世話な内容に騎士が素っ頓狂な声を上げる。その瞬間に地面がボコ!と盛り上がった。
「ハイ土属性!悪くないネ!」
「火も雷も風も、相性の良い魔力が空気中の元素と反応して発現してるダケなんだよネ」
「土は空気中では生み出せない。でも触れれば魔力が反応するってコトだヨ!」
「な、なるほど...?」
騎士が盛り上がった土を見て声を震わせる。
すると周囲でそれらを眺めていた騎士が「ほう」と顎に手を当てた。
「魔法にも道理があるのか」
「属性か。面白いものだな...」
「ますます己の力が気になって来ましたな」
「使えるものであれば良いのだが」
ほんの少しでも理解が出来れば、恐怖は薄れる。
いつの間にか魔力の修得に前向きになっていた騎士達は、子供同然の見た目の二人に「魔術師殿、頼みます」と手を出して次々に魔力覚醒を受けていく。
「うわ!?」
「キミは水属性だネ、魔力は微量!でも使い所はあるヨ」
「うぐっ!?」
「おっ、二属性持ちだ!ちなみにボクらは五属性〜!」
「くっ!」
「あー...、適正属性の数と魔力量は比例しないんだ。器用貧乏もありえるヨ!つまりキミは“ソレ”!」
「うおおっ!?」
「ハイ、少ないのにビビりすぎ。結局は魔力量って素質と精神力と鍛え方だからネ」
「自然覚醒してない人間は育ってないのが当たり前カナ〜」
結果、全員に魔力覚醒が行われたものの、実戦に至る魔力量を持つ者は半数にも満たなかった。
「コレでも非戦闘民に比べたら格段に多い方だヨ!鍛錬と精神統一に長けた辺境騎士クンたちだからこその結果だネ!」
「辺境伯夫妻やイズラール達は感情の乱れでカンタンに暴発するくらい身体に魔力が溢れてる。でも、魔力量が少ないヒトたちはまず発動が難しいって極端な状態だネ」
「というワケで!魔力暴発の制御を目指す実戦組と、魔力量増大を目指す支援組に分かれるコトになるヨ!みんな魔法騎士目指してガンバロー!」
きゃぴきゃぴと掛け声を発するディオスとクロイス達。まだ落ち着かない騎士達の傍らで、ゼーマンとイズラールに挟まれてベンチに腰掛けるイリーゼが自らの手のひらを見つめていた。
「すごい...。わたしが触れた花が、あんなに急激に成長するなんて...」
「驚いたなあ。俺はちっせえ火しか出なかったが...」
「魔力って何なのかねえ」
イリーゼは小さな体で野花を大きく成長させたにも関わらず、熊のような身体のゼーマンは蝋燭のような火が指先に灯っただけだった。
双子は素質の他に精神力などと口にしていたが、それにも関係があるのだろうか。
現に彼らの後ろに控えているジェンキンスとラウール、そして何故か侍女のダリアまで強い魔力を宿しているようだった。ジェンキンスにおいては火、水、風、と強力な三属性が示された程である。
「魔力暴発する人はディオスの方へ、発動ができない人はボク、クロイスの方へ分かれてネー」
全員が魔力覚醒なんてものを起こされたというのに、双子の掛け声はまるで幼児学舎の教室かのようにのどかである。
イズラールはやれやれと立ち上がった。
「暴発する人にはとりあえず魔防手袋を配りまーす」
「日常生活はこれでやってネ!安定するまで親しい人とのキスとかそれ以上の身体接触は禁止でーす」
セリウスを含む暴発側の騎士達数人がどんよりと暗い顔をする。
「忌々しい魔力め...」
「制御が身に付けば好きなだけイチャつけるヨ〜!ホントなら魔力封じの首飾りでじっくり慣らしたりするケド、時間がないので今回は手袋のみで頑張ってもらいまーす!」
ますます眉を険しく寄せるセリウスに、歩み寄ったイズラールがこそりと囁きかけた。
「なあセリウス。これってファビアン達にも伝えてやった方がいいんじゃないの?」
「...話がややこしくなる気しかしないが」
するとステラが「その話か」と振り返った。
「ファビアンになら会議前に文を出しといたぞ。あいつは以前、王家の脅威について気をつけるようお前に言及してたろ。こっちの意図もすぐに気づくだろう」
「勝手な事を...」
双子に続いてあのやかましいファビアンまでが参戦するのか。気が狂いそうになる予感しかない。
思わず目元を押さえたセリウスにステラはむっと唇を尖らせた。
「人を頼りたがらないのはお前の良くない所だぞ、セリウス。王になろうってやつが孤立してどうする」
彼女は手袋をきゅっと嵌めると、セリウスの額をパチンと指で弾く。
「っ、...だから無闇に触れるなと!」
この妻の奔放さときたら、まったくどうにかならないものか。こちらの心配など気にもかけない。
セリウスは飛び出た閃光ごと、手袋の中に指先をぐっと押し込めた。
最近忙しく、書ける時にうりゃーっと書いてたくさん投稿する形になりつつあります。
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