63.魔法騎士
「意見が固まったところで、諸君に新たな情報を開示しよう」
セリウスがゆったりと椅子に腰掛け、彼に促された騎士達もそれぞれ腰を下ろす。
皆が革命へと志を一つにし、この場の全員の腹は決まった。いざ作戦会議か、と彼らが唇を引き結んだのも束の間。
「先日、魔法公の手によって俺は魔力回路を開かれ、この身は魔力覚醒と呼ばれるものに至った」
彼が告げたのは予想だにしない内容。
騎士達は意味のわからない話に怪訝な表情を浮かべた。魔力回路に魔力覚醒などと、今まで聞いた事すらない単語だ。
「なんです、その魔力なんとかというものは」
まったく腑に落ちない彼らの様子はさもありなんだ。ステラはおもむろにセリウスの耳を引っぱった。
「っ、何をする!」
彼が肩を引くと同時に、バチン!と指から青い火花が空へ散る。暗闇で瞬く閃光に思わず騎士達が仰け反った。
「な、なんだ今のは!」
「まさか、本当に魔術が...!?」
驚きを隠せない彼らにステラは肩をすくめる。
「そうらしい。こいつの魔力は雷と親和性が良いとかなんとか。今は制御が効かないようだが、いずれ使いこなせる様になるそうだ」
ステラが答えると騎士達は「ははあ...」と感嘆の声を漏らす。セリウスは焦りと苛立ちを堪えながらステラを振り向いた。
「ステラ、今は無闇に触れるなとあれほど...」
「だって見せた方が手っ取り早いだろ」
「だからと言って...!」
悪びれず答えたステラへセリウスは声を荒げかけ、また指先に魔力を感じて黙り込む。
こちらが必死に感情を抑え込んでいるというのに、この妻ときたら...。今まで通り気軽に触れてくる豪胆さには、危機感の欠如を心配させられる。
「ま、それはさておきだ。魔法公によれば、この魔力とやらはこの国の人間全てに宿っているものらしい」
ステラは何でもなかった様に騎士達に向き直る。
軽く言い放たれた内容へ、イズラールが目を丸くした。
「...ウソでしょ。ってことは俺にも魔力があるわけ?」
「そうだ。お前にもあたしにも、そこのイリーゼや騎士達。この場の全員に魔力が流れているんだと」
指を指された彼らは、それぞれ顔を見合わせた。
「にわかには信じられませんな...」
前方の席で中年の騎士が髭を撫でて唸る。
かつて嫁いだばかりのステラへ皮肉を向けたこのハウゼンは、主人が先代の頃から辺境騎士として勤め続けた古株の一人だ。その長い期間に、一度たりとも魔法なんて見た事もない。
「魔法公の言葉に偽りは無い」
しばらく黙り込んでいたセリウスが口を開く。
感情の波を落ち着かせた彼は、先ほど稲妻を発したばかりの自らの手をじっと見つめた。
「現に全く魔力を感じもしなかった俺が、今や暴発に苦労する始末だ」
だが、一刻も早くこの力を使いこなせなくてはならない。革命が差し迫っている今、時間はないのだ。
「本題に入ろう。魔法公がこの事実を一早く知らせた理由は、辺境騎士諸君らの迅速な魔法騎士化が目的だ」
「なんですと!?」
中年騎士は髭を撫でていた手を止め、目を見開いた。革命の熱量が落ち着きかけていた場が、再び騒然となる。
「我々全員に魔術を扱えと!?」
「この30年、剣を握った事しかありませんのに...!」
「己の身に魔力などさっぱり感じませんが!?」
「この歳で魔法の術式なんぞ覚えられる気がしません!」
あわあわと手を浮かせて慌て出す脳筋騎士達。
ひたすら剣と戦と地道な肉体作りに打ち込んできた男達である。セリウスは“正直気持ちは分かる”と返したいのをなんとか腹に収めて彼らを宥めた。
「ひとまず落ち着け。その為に魔法宮から指導官となる魔術師がこちらに派遣されている。おそらく昼には到着するとの知らせを受けた」
「という事は本日から魔法に触れるのですか!?」
「そうなるな」
騎士達は急に降りかかった未知へと青ざめる。
するとそんな騒ぎを見守っていたイリーゼが「でも、これってすごい事ですよ!」と大きく声を上げた。
「だって、わたしたちの肉体はまだ感知していない力を秘めているんですよ!?こんなこと、学園でも教えられませんでした。魔力とは何なのか、いったい自分が何の魔法が使えるのか...わたし、楽しみです!」
純粋な瞳をきらめかせた彼女の隣で、ゼーマンもうんうんと頷いて腕を組む。
「本当に魔力回路なんてもんが存在するなら、俺らの人体にはまだ未知の器官があるって事です。医師なら興味が湧かない奴は居らんでしょうなあ」
学術的な観点から大きく興味を示す軍医達。それらに耳を傾けていたイズラールは「へえ」と笑って、イリーゼの頭をぽんぽんと撫でた。
「さすが俺の軍医見習いさん。急に楽しみになってきたな。俺もその魔法とやらを早く使ってみたいもんだね」
彼の声は相変わらず場にそぐわない軽さを纏う。
わいわいと盛り上がり出す後方は良い兆候だ。ステラも後押しする様に「だろう?」と笑みを浮かべた。
「あたしも正直待ちきれないんだ。...て言うかはっきり言わせて貰えば、なんでこいつの魔力覚醒が先なんだ!昨日なんて自分の魔力に怯え散らして、あたしから逃げ惑ってだな...」
ステラがぶつぶつと言いかけた文句に、慌てたセリウスが大きく咳払いする。
「とにかく!一旦皆の結論と同意は得たとしよう」
何度か続けて咳き込んだ彼は、誤魔化すようにバン!と机に手を置いた。同時にパリッと音を立てて稲妻が散る。
彼はこの場を流したいようだが、誰が見たとて耳が赤く染まっていた。
...つまり、辺境伯夫人の話は事実なのだろう。この憮然とした仏頂面で、愛する妻を傷つけぬよう必死に逃げ回って遠ざけたに違いない。
騎士達の脳裏に、余裕を失った辺境伯の姿がありありと思い浮かんだ。
にまにまとした笑みを噛み殺す彼らの前で、セリウスは目元を抑えながらなんとか言葉を絞り出す。
「...後は昼の訓練場にて再び集合とする。それまでは持ち場に戻り、各自勤めをこなしておけ。以上だ」
————
「というわけで、ボクらが君たちの指導官になる魔術師でーす!」
「みなサンどーぞヨロシクねっ!」
昼となって訓練場へ現れたのは、ステラの肩あたりまでしか背のない双子。
「セリウスとイズラールは久しぶりだネ!元気にしてた?」
「ついこの前までルカーシュとファビアンもきてたんデショ?聖騎士仲間大集合だあ!」
きゃは、と笑う二人はあまり見かけない薄桃色のふわふわとした髪に、淡い琥珀の瞳をきゅるりと動かす。
難解な刺繍入りのローブからようやく覗く小さな指先、ぶかぶかのフード。大きめのブーツを鳴らして歩く姿はマスコットのようである。
どちらがどちらか分からないほどによく似た双子は、12才のイリーゼと身長も大して変わらない。その姿はどう見てもまだ10代前半にしか見えなかった。
「元聖騎士...?」
「こ、このような子供に指導を受けるのですか...?」
こそこそとセリウスへ囁いた騎士達は、理解の及ばない状況に双子を見比べる。
「もーっ、失礼しちゃうナ!ボクらはれっきとした成人だヨ!」
「コレでも30を超えてるんだから!セリウスみたいな“お子チャマ”と一緒にしないでよネ!」
ぷんぷん!と頬を膨らます姿といい、その子供じみた口調といい、彼らはどうみても無邪気な美少年。
「嘘つけ!どう見てもガキンチョだろうが!」
「卿、これは冗談ですよね...?」
ステラが双子を見下ろして眉をしかめ、騎士達が苦笑いを浮かべて振り返る。
だがセリウスはやれやれと視線を空に向けると、腕を組んで溜め息を吐いた。
「残念だが事実だ。ディオスとクロイスは35歳。聖騎士の中で最年長だった」
「「「 35歳!? 」」」
セリウスとイズラールを除いた全員が声を揃えて裏返らせる。
「ディオス・ジェミノー(35)です!好きなモノはホップの効いた黒エールと臭めのチーズですっ!」
「クロイス・ジェミノー(35)です!好きなタイプは気の強い爆乳ギャルです!」
きゃぴ⭐︎と2人は目元にピースサインを当ててポーズを取る。イズラールがうげぇ、と舌を出し、セリウスが眉根に皺を寄せた。
「聞いた?イリーゼ。可愛い見た目に騙されちゃ駄目だよ。これでしっかりオッサンなんだから」
「その上こやつらは、城の侍女に次々と手を出した倫理観の無いケダモノだ。いいかステラ、俺無しでは決して近づくな」
二人は双子の視線を遮るように、ステラとイリーゼの前に庇い立った。
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