これから その四
でも僕は気づいた。実際にどちらが悪かったのかなんて、関係ないのだ。納得できるかどうか。大切なのはそれだけだ。僕だって痛いほど分かっている。善悪は不確かだ。でも、自分が納得できるかどうか、それだけは確かなのだ。
「話しすぎましたね。私のことはどうでもいいんです。それで、北神のことですが」
キタガミさん。僕は彼と一度決別する選択をしたが、結局彼は最後の最後に、身を呈して僕のことを助けてくれた。
彼は愚かなくらいに真っ直ぐだった。そしてその真っ直ぐさに、僕は救われたのだ。
「……彼はかなり特殊な立場ですから、裁判は長引くと思われます。彼は正確には白鷺組の組員ではない。しかし闇医者として組に貢献していた実績は確かなものですし、クローン実験……つまりタツさんたちの一件にも、関わりすぎるほどに関わっています」
その通りだ。父亡き今、僕たち以上にクローンについて知っている人と言っても過言ではない。
「ですが、あなたが書いた嘆願書は、確かに届いたようです。どう転ぶかは分かりませんが。……おそらく、死刑にはならないのではないかと、司法の人間からのタレコミがありました。記事にしたら私も彼も危険なので、このことは私たちの間だけの秘密ですが」
無論そのつもりだ。このことまでは、世間に公表するつもりはない。
公平に、フラットな視点で裁いてほしいと思っているのは事実だ。しかし同時に、キタガミさんには助かってほしいと思っているのもまた、事実だった。
彼はきっと自分の罰が軽くなることを望まないだろう。それでも、いや、だからこそ、僕は嘆願書を出したいと思った。
彼とはまだ、話したいことがたくさんある。
あの一件ののち、キタガミさんとはほとんど連絡が取れなくなった。定期検診にも来ず、どこにいるのかも分からなかった。あとから実さんに聞いた話によると、キタガミさんは自分が携わった研究の被験者たちに会って回っていたのだという。自らが死刑になると思っていたのかもしれない。
彼が警察に連行される前日に、僕とキタガミさんは――ノリはそのときすでにもう、警察に引き渡された後だった――久しぶりに再会した。
彼はただ、すまなかった、とだけ言った。
僕はなんて返していいか分からずに、そうですか、と言ったような気がする。あまり覚えていないが、とにかく大して意味のある言葉は言っていない。
キタガミさんはノリにはすでに会ってきたと言った。ノリも僕と同じように、なんと返していいか分からない様子だったとキタガミさんは小さく笑った。




