これから その二
「分かるのね」
「はい。世間にとってはまだまだこれからでしょうけど。僕たちにとっての戦いは、あの時にはもう終わりましたから」
あとは消化試合だ。世間がどう受け止めようと、僕の知ったことではない。長い時間を経て、そう思えるようになっていた。
僕ではない僕なんて、存在しない。どんな生い立ちだろうと、生を受けた時点で僕とノリは、別のそれぞれの人間だ。
世界がどんなふうに僕たちを定義するのかは知らない。興味もない。ただ僕たちの中に、確信があるだけだ。
「お久しぶりですね、タツさん」
実さんと別れた僕は、今度は伊東さんに会いに行った。
ネットカフェのカラオケルーム。狭いし簡素な造りだが、防音性に優れていて内緒話にはうってつけだ。
あんな険悪な出会い方をしたのに、結局この人は最後まで僕たちのために動いてくれた。
「伊東さん、少し痩せましたか?」
「まあ。ここのところ忙しかったものですから。食事が疎かになっていたかもしれません」
「駄目ですよ。もともと細いんだから、しっかり食べないと」
「ありがとうございます。でも、それはタツさんも同じですよ」
「僕はむしろ太ったと思いますけど。外に出られませんから」
「そうですか?」
雑談もそこそこに、僕は本題に入る。
「何か分かったことはありましたか?」
伊東さんは頷いた。
「やはり、白鷺組に対する情報規制は厳しいという他ありません。マスコミの取材なんて絶対に受けないし、刑務所周辺の警備もかなり厳しいですね」
キタガミさんも含めた白鷺組関係者は、実さんやノリとはまた違った刑務所に移送されていた。クローン研究、それから人の性格を変える研究を悪用した犯罪組織として、彼らは父以上に酷いバッシングの嵐に晒されていた。
今回の件で、意外なことにノリに対する批判の意見は僕が探した限りではほとんど見つけられなかった。多いのは父と白鷺組に対する批判。母に対する批判も少なからずあった。
僕とノリに対しては、同情するような意見が大半だった。別に嬉しいとは思わなかった。ただ、父に対する批判の意見に対してはモヤモヤした気持ちを覚えた。この事態を引き起こした父に怒りを覚えなかったわけではない。だが、世間なんて他人じゃないか。何を知った気になって、父のことを悪く言うのだ。
外に公表することを選んだ時点でこうなることは察していたとはいえ、複雑だった。今でこそ落ち着いたが、最初の頃は同情にも批判にも、どちらにも同じくらい腹が立った。




