語ることと語らないこと
「……そりゃ、そうだろうな。俺はもう二十年近く、この現実を抱えてきたが……未だに、何が正しいのかなんて分からねえよ。文昭のことは、人として好きだ。だが、やったことは、紛れもない犯罪だろ。しかもその犯罪が、新たな犯罪を生んじまった……」
ノリの犯行には、真実を知ったショックと、自分を捨てた母への恨み、それから――こんな状況を生み出した父への、抑えられない憎しみがあったに違いない。そんな父が実はノリのことを愛していたと分かったからこそ、ノリは揺れているのだ。
でも、僕たちが突きつけられた真実を、キタガミさんと実さんは、誰にも話せないままに背負い続けてきたのだ。特にキタガミさんは、ずっと僕たちの世話を焼いてくれていた。本当のことを伝えられないまま、僕たちと接し続ける日々は、一体どんな気持ちだったのだろう。思えば僕は、そんなキタガミさんの気持ちを推し量ろうとしなかった。愚かだった。
「……柄でもねえ、しみったれたこと言っちまったな。おいタツ、悪かったとか考えんなよ」
僕の心を読んだかのように、キタガミさんが言った。
「……でも」
「俺がお前らに隠していたことは事実だ。……お前ら二人の真実について、な。どんな理由があれ、俺が隠していたことが今回の事件に繋がったことには変わりねえ。……許されるとは思っちゃいねえが、一生背負い続けるつもりではいる」
その覚悟は本物だと、僕は直感した。彼はそういう人だ。亡くなった父の使命を、想いを、背負い続けて今日まできた。これからは、今回の事件も一緒に背負い続けるつもりなのだ。
なんて強い人なのだろう。
そのとき、コンコン、と控えめにドアがノックされた。「どうぞ」と言ったが、この声が響かない研究所で、僕の声が聞こえたのかは分からない。ただし、ドアは控えめに開いた。
入ってきたのは、ノリだった。実さんと伊東さんの姿はない。泣き腫らしたせいで目は真っ赤になっているが、もう泣いてはいないようだ。消えてしまいそうな危うさはあるが、先ほどのような情緒の不安定さは感じられない。
キタガミさんが立ち上がった。僕の肩を叩き、「あとは二人で納得するまで話せ」とだけ言うと、ノリのほうへと歩いていった。それからノリの隣を通り過ぎる。通りざまに、ノリの背中をぽん、と軽く叩いていった。キタガミさんはいつも、多くは語らない。長く喋るキタガミさんを見たのは、父との思い出を話してくれたあのときくらいではないだろうか。でも、確かに優しい人だ。




