表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/95

ナイフ

「いいですね? 叔母さん。叔母さんも、捕まることになると思いますけど……」

 実さんは驚いた様子で固まっていたが、呼ばれたことで我に返ったらしく、ハッとした様子で真剣な表情に戻り、僕の言葉の意味を噛み砕くように目を光らせた。

「……ええ。他でもないタツくんがそう言うなら、私に止める権利はないわ。それに私は……実は、前からそうしたかったんじゃないかと思うの。疲れた気持ちと、タツくんたちのことを想う気持ちと、文昭さんに対する気持ちの板挟みになってた」

 実さんは少しの沈黙のあと、決然として言った。それは、世の中すべてへの宣言のように思えた。

「もう終わりにしましょう。……何もかも」

「ふざけんな!」

 しみじみとした空気を引き裂いたのは、劈くようなノリの声だった。研究所の冷たい壁にノリの声が吸収されていくような気がする。この研究所は声が響かない。どれだけノリが叫んでも、外に聞こえることはないのだ。良いことのはずだが、今の僕にはどうにもそれが寂しいことのように思えた。

「僕を抜いて勝手に決めるな! 僕はそんなの許さない。もう僕は、止まれないんだ。引き返せない!」

「だったら、どうするつもりなの?」

 ノリがポケットから何かを取り出した。鈍く光る金属。サバイバルナイフだ。血がべっとりと付着している。

「そのナイフは……」

「……母さんが持ってたものだ。職業柄、危ない目にも遭うから護身用だって。その護身用を奪われてちゃ、世話ないけどな」

「……それくらい、心を許していたのかもしれないね」

 伊東さんがぼそりと呟いた。言うつもりはなかったが言ってしまったという感じだった。案の定、ノリは目を剥いて伊東さんを睨みつける。伊東さんは少し怯んだ様子を見せたが、すぐにノリの目を見つめ返した。

「私は、君と君のお母さんのことをすべて聞いたわけではない。殺害に至るまで、君にしか分からない苦悩があったんだろう。君たちをずっと放っておいたのも、君たちを心から愛さなかったのも、親として最低だと思うよ。自分の生活が苦しくなって、そうなってから初めて子に頼るのは、身勝手な話だろう。でも君のお母さんは、護身用の武器を携帯するほど慎重だったのに、君には……」

「うるさい! そんなの、僕を見下していただけだ。心を許していた? そんなわけあるものか!」

「……私には、分からない。君がそう思うなら、正しいのは君のほうなのかもしれない。出過ぎた真似をしたね」

 伊東さんは肩をすくめ、大人しく引き下がった。しかしその態度が、さらに火に油を注いでしまったようだった。

「僕はタツを殺す。そして自分も死ぬ。邪魔するなら、お前たちも殺す」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ