決意
「もう、いい。もう、どうだっていいよ」
「どうしたんだよ、ノリ。まだ……信じられないの?」
ノリは激しくかぶりを振る。
「そうじゃない。父さんが本気だったってことは分かった。だから……だからこそ、僕は……」
ノリの目からは大粒の涙が溢れている。もう隠すつもりはないようだ。あるいは、泣いていることにすら気づいていないのか。
「僕は、父さんの期待を裏切ったんだ。結局僕は、駄目だった。ろくでもない人間で、残虐だった。実の母をああやって……滅多刺しにして……」
「ノリ。確かにノリは、間違えたのかもしれない。でも、やり直しがきくよ……」
「勝手なことを言うな! やり直しなんてできるものか! 僕が捕まれば、タツは外に出られなくなる。タツが代わりに捕まっても、僕は外に出られなくなる。まったく外に出ず、誰の目にもつかず生活するなんて不可能だ。自分の影武者でもいない限りは。だからもう無理なんだ。全部ばれる。父さんが命を賭して隠そうとしたものは、もう隠せなくなったんだ!」
「隠さなくていいじゃないか」
気づいたときには、そう口走っていた。考えるより先に言葉が出た。ノリだけでなく、実さんや伊東さんも、驚いた顔で僕を見ている。
「……隠さなくて、いいよ。どうなるかは分からないけど、もう、これ以上隠したって、僕もノリも辛いだけだ。……叔母さんには申し訳ないけど」
「何を言ってる?」
ノリが声を荒げる。
「まさか……警察にでも、出頭するつもりか」
これから先どうするのか。ノリと話して、真相を知って、それからどうするのか。僕の中で区切りがついたとしても、世界は何も変わらない。そのままで本当にいいのか。
ずっと考えてきたことだった。でも今、やっとその答えが出たような気がする。
「警察には言う。でも、その前に、世間にこのことを公表する。幸い、この場には伊東さんがいる。記事にすれば、マスコミはこぞって食いつくはずさ」
世間が受ける衝撃はどれほどのものだろうか。クローンが当たり前だった――そして、自身がクローンだった――僕には想像することもできない。ただ、凄まじい混乱をもたらすことは容易に分かった。混乱は日本だけに留まらず、世界中に広がるだろう。ノリの罪がどうなるのかは分からない。父や実さんの罪も。そして僕の扱いがどうなるのかも。ただひとつ分かっているのは、これまでと同じ暮らしはできないということだ。でも、そんなことは今更だ。とっくの昔に分かっていたことのはずだ。




