ファイル
実さんがカードキーをかざすと、資料室のドアが開かれた。
壁一面が本棚になっており、難しそうな専門書や分厚いファイルがぎっしりと詰め込まれている。
実さんは迷うことなく部屋の奥にある棚に向かうと、一番下の段を指した。
「ここにあるファイルが、全部そう。好きに見てもらって構わないわ」
「これ、全部……ですか?」
想像以上の量だ。これでもまだ、完成していなかったというのか。
「ええ。……それから、優さんに関するファイルは……」
実さんはまたもや、悩む素振りも見せずに違う本棚に行くと、一冊のファイルを抜き出してきた。ファイルにはラベルが貼られているが、ただ数字が書かれているだけだ。よく悩まずに持ってこられるものだ。もしかして、すべてのファイルの位置を把握しているのだろうか。
「ここにあります。ただ……分かっておられるとは思いますが、読んでいて気持ちのいい内容ではありません。科学資料として、実験の手順から経過まで、細かく書いてあります。写真もあります。ですから、無理に読むことは……」
伊東さんはかぶりを振り、確かな手つきでファイルを受け取った。
「大丈夫です。……覚悟はできています。ノリさんもタツさんも、実さんも、みんな終わらせる覚悟を持って、ここに来たのでしょう。私だって同じです。私だけが、泣き言を言っているわけにはいきませんから」
伊東さんは早速、ページを捲った。真剣な表情で、一言一句逃すまいといった様子で文字を追っている。
「ノリ。……僕は読むよ。ノリはどうする」
ノリは苦虫を噛み潰したような顔で、入り口で立ち止まっていた。僕はそんなノリから、目を逸らさない。
「……分かったよ」
ノリが掠れた声で言った。僕は頷き、力強い足取りで本棚へと向かう。不思議と気持ちは落ち着いていた。
僕は一冊のファイルを抜き取り、読み始めた。ノリも、少し迷った様子を見せてから、僕とは違うファイルを手に取り、おずおずといった様子でページを繰った。
しばらくは、僕とノリの健康診断の結果がずらりと並んでいた。異常なし。やや血圧が上昇、しかし異常と呼べるほどではない。異常なし。タツがインフルエンザに罹患。ノリに感染。無事完治。後遺症なし。異常なし。異常なし。
僕もノリも大きな病気をしたことはなかった。父が身体が弱かったから、遺伝してもおかしくなかったが、そこは運が良かったといったところか。身体の丈夫さは母に似たのだろう。




