揺れる
「だから、白鷺組はクローンに興味を持たなかったんですね」
「そういうわけだ。だが、親っさんは馬鹿じゃない。遺伝子を組み換えて性格を変えるという技術そのものに注目したんだ。組は人の集まりだ。人は自我を持つ。欲を出せば裏切ったり、恐怖心を抱けば逃げ出したりと、うまくいかないことだって出てくる」
当然のことではあるが、そのリスクは暴力団と一般的な集団とではまるで違うのだろう。
「だから、その技術を使って従順な兵隊をつくろうとした。文昭は躊躇ったが、背に腹は替えられなかったと言っていた。文昭が実際に実験に参加したのは、最初の数回だけ。文昭はやっぱり天才だった。たった数回の実験で、手順を完璧なものにしたんだから」
「でも、優さんは亡くなってしまったのでは?」
「そうだ。……マサルは、その最初の数回の被験者だったからな」
「では……失敗だったと、いうことですか」
「ああ。最初はうまくいったと思った。マサルは元から真面目で従順ではあったが、その短気さが問題視されていたんだ。でも、遺伝子を組み換える手術を終え、マサルは別人のように穏やかになった」
「でも、優さんはすぐに組を抜けたと聞いています。組にとって都合のいい人間をつくる研究だったのに、組から抜けたがるのでは……」
言い終える前に、ハッとした。
「そうか……だから失敗なんですね」
「そうだ。そもそも素直で従順な人間は、やくざなんかにはならないからな。そこが、文昭が最も苦労したポイントだった。だから、もう一度手術を行った」
「もう一度? でも、優さんは組を抜けたのでは……」
キタガミさんは頷く。
「そうだ。だから、騙して連れてきた。父親のためになる薬があると言ったら、大人しくついてきたと聞いてる。父親に重篤な病があると嘘をついて、診断書まで偽造したらしい。素直すぎる性格になっちまったのが、仇になったんだ」
「その実験の結果……亡くなってしまったんですか?」
「心臓に重大な欠陥を抱えてしまったというほうが正しいが、まあ、大した違いではねえよな。そのとおりだ」
「そんな……あんまりです! 父親のためにと言って騙すなんて、そんな……初めての親孝行のつもりだったんでしょう、優さんにとっては。それなのに……」
僕はキタガミさんの胸ぐらに掴みかかった。けれども、すぐに離す。
当たっても仕方がないって、思ったばかりだろう。感情が明らかに不安定だ。
もしやこれも、僕の「残虐な遺伝子」のせいなのではないか――。現に今、僕はキタガミさんに掴みかかった。これが、僕に秘められた、暴力性なのではないか。




