生まれ持ったもの
「そして文昭は、生まれたばかりの我が子の遺伝子もくまなくチェックした。すると……極めて残虐な性格を形作る遺伝子の組み合わせがあることを発見したんだ」
キタガミさんは言いにくそうだったが、それでももう隠そうとはしなかった。その真っ直ぐな瞳から、彼の言っていることは真実だと分かる。
僕に秘められた、残虐な遺伝子――。
僕はこれまでの自分を省みる。どちらかといえば、暴力的なことは嫌う子どものはずだった。あまり残虐である自覚はない。でも、少し時間が経っただけで死体があった部屋で過ごせるようになったり、幼い頃は戦いごっこが好きだったり……。些細だけれども、確かにそういう傾向はあったのかもしれないと思えなくもない。それに、サイコパスは押し並べて己の異常さに気づかないというではないか。思い込みだと言われればそれまでだが、そうと言われればそんな気もする。僕は、明らかに混乱していた。
キタガミさんが僕に言い出せなかったのも無理はない。僕には生まれつき残虐な性質が秘められていると、そう伝えるのと同義だからだ。
「……残虐な遺伝子……ですか」
「それが意味するところは……俺の口からは言えねえ、悪い」
キタガミさんががばりと頭を下げた。僕は思わず、「そんな、やめてください」と口走ってしまった。
意味するところも何も、そのままのことではないか。僕は残虐な遺伝子とやらを持っていた。生まれながらに残酷非道な性質を持っていたのだ。父が自分の長生きのために始めたクローン研究の対象を、僕に変えざるを得なくなるような。父は僕への愛しさから僕のクローンをつくったのではなく、僕を恐れるあまりクローンをつくらないといけなくなったのだ。
僕は生まれただけで、父の人生をめちゃくちゃにしてしまったのか。
いや、でも、遺伝子というくらいだから、元々そんな性質を持っていたのは両親のどちらかなのではないか。自分を実験対象としていたのだから、父が己の遺伝子を知らなかったわけがあるまい。となると――母か。
母に残虐な性質があったというのは、なんとなく納得できるような気がする。だから子どもを愛せなかったのだと。それでは僕も、子どもができても愛することができないのだろうか。
駄目だ。余計な想像ばかり膨らむ。僕は苛立ちのあまり頭を掻き毟った。
「大丈夫か……タツ」
「……大丈夫だと思いますか」
キタガミさんは、目を逸らす。キタガミさんに当たっても仕方がない。今更何が変わるわけでもない。
「……大丈夫ではないですけど、もう、いいです。今はそんなことを言っていても仕方がない。話を戻しましょう」
キタガミさんは、頷く。
「そうだな。……マサルをはじめとする、複数の組員に行われたのが――いや、俺が行ったのが、遺伝子を組み換え性格を変えてしまう研究だったわけだが、それは文昭の研究の副産物だった。親っさんは、文昭から技術を持ち込まれたとき、クローン研究にはあまり興味を示さなかったんだ。文昭のクローン研究は、生物のクローン作成でよく用いられるような、一度子宮に戻し普通の妊娠・出産の過程を経るというものではなかった。妊娠、出産の過程を特殊な薬液を使った人工子宮で行うことでずいぶん短縮できていたんだ。それでも、短縮することができるのは人間でいうとおよそ二歳ほど。二歳の子どもを育てる余裕は、組にはなかったんだ」




