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神の所業

 伊東優――イトウマサル――享年十九歳。伊東さんの息子さんだ。

 その名前を出せば、さすがのキタガミさんでも狼狽するかと予想していたが、キタガミさんの顔色はいつもどおりだった。多少の驚きはあるようだが、どちらかといえば予想していた言葉だったように見える。

「……伊東という名前を聞いたとき、もしかしたら、と思ったんだ。やっぱり……マサルの親父だったのか」

「……知っているんですね?」

「ああ。マサルは……俺が、殺してしまった人間だからな。忘れるわけねえよ」

「殺してしまった……?」

「俺が直接手を下したわけじゃねえが……いや、それすらも言い訳だな。俺だ。俺がやった実験の結果、マサルは死んだんだ。ある程度のことは、お前も伊東から聞いたんだろ?」

 僕は頷いた。キタガミさんがやった実験――とは言うが、キタガミさんは科学者ではない。医者としての立場でアドバイスはできても、実験そのものを考案することはできない。

「……父も、関わっていたんですよね。優さんに行われた実験は、クローン実験の前段階だったんですね?」

「前段階?」

 意外にも、キタガミさんはこれには驚いたような表情を見せた。

「違う。文昭の理論は、すでに完成していたんだ。危険な人体実験を必要とする段階にはなかった。本当だ」

「それなら、どうしてそんな実験なんか?」

「あれは……文昭の実験の、そうだな、むしろ副産物といえるものだった」

「副産物……?」

「ああ。文昭のクローン実験は、遺伝子のコピーを作り、それから……」

 そこでキタガミさんは、不自然に言い淀んだ。

「どうしたんですか? ちゃんと言ってください!」

「……そうだな。お前に遠慮して言えずにいたが……。隠すわけにはいかねえ」

 キタガミさんは、僕に隠していたことだらけだ。研究所のことしかり、白鷺組のことしかり。それらが明らかになった今、何を言い渋ることがあるというのか。

 それとも、もっと重大な秘密があるというのか――?

 次にキタガミさんが放った言葉は、僕を凍りつかせるには十分だった。

「……それから、不要な遺伝子を取り除くものだったんだ」

 なんだって――。

 ノリは、僕のそっくりそのままなコピーではなく、不要な遺伝子を取り除いたものだったというのか?

 不要な遺伝子とは、一体……。

 僕の心の声を読んだかのように、キタガミさんが答える。

「性格のほとんどを遺伝子が決めていると、文昭は自身の長年の研究の結果、確信した。そして、どんな遺伝子がどのように組み合わさって性格を形成しているのかも、ざっくりとした方向性だけではあるが把握していたんだ」

 頭がクラクラした。性格のほとんどを遺伝子が決めるというのは、つい最近聞いた話だし、僕自身もそうなのだろうと思っていたことだ。だって僕とノリは、まったく同じ人間であるかのように気が合う。

 でも、どんな遺伝子がどんな性格を形成するか把握していたなんて、それはまるで、神の所業ではないか。父は人ではなかったのではないか、という恐怖心にも似た感情に支配される。

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