敵か味方か
キタガミさんは待ち構えていたかのようにすぐに電話に出た。
「おう、タツ。無事か」
「はい。無事です。伊東さんのことは説得できました。もう白鷺組に仇なすことはないということです。警察にも言わないし、記事にするようなこともないと」
「そうか。ずいぶんとうまくいったんだな」
「……はい」
「……何かあったのか?」
キタガミさんの声色が少し優しくなった。僕は胸が痛む。これから僕は、キタガミさんを敵に回すかもしれないのだ。
だからいっそ、もっと冷たい声で、突き放すような、疑うような態度でいてくれたら良かったのに。親のような愛情さえも感じるような、そんな声で話しかけないでほしい。揺らいでしまう。
キタガミさん、あなたは、僕の味方なのですか、それとも敵なのですか?
キタガミさんとは、次の日の夜に会って話をすることにした。電話で片付けるような話でもない。
当然ながら、翌日の仕事はまったく手につかなかった。それなりに仕事はそつなくこなすほうだったのだが、らしくない初歩的なミスを連発し、上司も怒りより心配が勝ったらしく、さかんに声をかけられた。飲みに行くか、とも言われたが、予定があるので、と丁重に断った。
家に着いて少ししたら、すぐにキタガミさんはやってきた。大体の帰宅時間は伝えていたから、準備をしておいてくれたのだろう。
キタガミさんはまったくもっていつもどおりだった。何か武器を隠し持っているふうでもない。それに対し僕は、キタガミさんからあの日受け取ったサバイバルナイフを、いつでも手に取れる場所に置いてある。自分が薄汚れた人間になったような、そんな気がした。
「それで。話ってのは?」
キタガミさんは早速本題を切り出した。僕は口内を唾液で潤してから、昨日のうちに伊東さんに聞き出していた名前を告げた。
「伊東優という名前に聞き覚えはありますか?」




