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真実を見る目

「えっと……ノリは、その」

 僕は言い淀んだ。正直に話せば、殺人が起きたことを伊東さんに知られることになる。確かに今、僕たちの間には絆が芽生え始めている。けれども、そんなことまで話していいものだろうか。

「どうかされましたか? ノリさんの存在は隠しているんですよね。でしたら今も、ここにいるはずなのでは?」

 僕は観念して、話すことにした。

「実は……ノリは今は、いないんです。行方不明で」

「行方不明? いつからですか?」

「ええと、二日前からです」

 一昨日に死体を発見し、昨日研究所と祖母の家に行った。とんでもなく長い時間が過ぎたように思えていたが、まだたったの二日なのだ。色々なことがありすぎたと、改めて思う。

「二日前ですか。大人の男性が二日いなくなるというのは、そんなに心配することではありませんが、ノリさんの場合は違いますものね」

「はい。しかも、僕がいない間に姿を消していましたから。……僕とノリのクローン研究には、暴力団――白鷺組が関わっていました。何かあったんじゃないかと、不安で仕方がないんです。きっと白鷺組は今、血眼になってノリを探しているはずですから、今大丈夫でも、いつ危険な目に遭うか……」

「なるほど。それは心配ですね。ですがどうして、ノリさんは家出を? あなたに何の相談もなく……」

「それは……」

 さすがにその先は、簡単に口にすることはできなかった。僕と伊東さんの間に、気詰まりな沈黙が流れる。

「今更隠し事はなしですよ、城戸さん」

 それでも僕は暫し迷った。伊東さんが警察に通報すれば、何もかもおしまいだ。

 だが、クローンのことを明かしてしまった以上、今更かもしれない。

 僕は話すことにした。

「……話すと長くなるんですが、実は……」

 僕は、伊東さんに事の次第を掻い摘んで話した。

 ある程度の衝撃は予想していたはずだが、その予想を大きく上回る内容だったらしく、さすがの伊東さんも絶句している。

「そう、ですか。人が……。ノリさんが、その、殺したと?」

「まだ決まったわけではありません」

 僕は慌てて否定したが、自分でも分かるくらいに声は震えていて、説得力は皆無だった。

「ですが、今更、他に犯人が出てくるとは思えませんね」

「それは……そうなのですが」

 認めたくない気持ちと、認めざるを得ないだろうという諦めが、僕の中で同居している。

「城戸さん、お気持ちはよく分かります。私も息子には一切の非はないと、手放しに信じたくなります。それが身内というものです。ましてやノリさんは、あなたの分身なのですからね。でも、どうか冷静になってください。冷静にならなければ、真相は見えないでしょう」

 伊東さんの言うとおりだ。でも、冷静になったところで、一体何が見えてくるというのだろう。

 伊東さんからもっと多くの情報を得られると期待していたが、結局のところ得られたのは息子さんが犠牲になったという研究についてだけだ。問い詰めようにも、その父はもう……。

 ……いや。冷静になれ。俯瞰して考えろ。都合の悪いことは見ない、それでは駄目だ。

 キタガミさんは、まだ知っていることがある。そのことが、伊東さんの話ではっきりしたではないか。

 僕の中で消えかけていたキタガミさんへの疑念が、再び膨れ上がっていく。

 それでももう、逃げるわけにはいかない。事態はすでに、動き始めているのだ。

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