芽生えはじめた絆
「ところで……一体どうしてあなたのお父さんは、あなたのクローンをつくったのですか?」
「それが……正直なところ、僕にもよく分からないんです。最初は、きょうだいがいない僕の寂しさを埋めるためにクローンをつくったのかと思っていましたが、父の助手の方が言っていたんです。僕に健やかに生きてもらうことが目的だった、って」
「ふむ……確かに、いまいちしっくりこない理由ですね」
実さんは曖昧な言い方しかしなかった。本当に知らないのか、それとも誤魔化していたのかは定かではない。
「ところで、あなたのクローンは法律的にどういう扱いというか、立場にあるのです? あなたの双子ということにしてあるのですか?」
「いえ、僕のクローンは、法律上は存在しないことになっています。ノリ――ああ、僕のクローンの名前です。ノリは、ずっと僕の家でひっそりと生きてきました。休みの日などは、僕と入れ替わりで出かけることもありましたが、学校や会社などには行けなくて」
「……なるほど。それは、大変だったでしょうね」
僕とノリ、どちらに対する台詞なのだろうか、と思ったが、何も言わなかった。
「それにしても……私も相当、北神の身辺を探ったはずですが、あなたのお父さんやクローン実験のことはまったく知りませんでした。よほど厳重に隠されていたようですね」
「そうですね。……伊東さんは、僕のことも知らなかったのですね?」
「ええ、この家の存在と、この家にやたらと北神が出入りしていること、男性がひとり暮らしているらしいことは知っていましたが、姿を見たこともありませんでしたね。北神を探ることに夢中で、こちらにまで手が回りませんでした。記者としては失格ですね。まるで周りが見えていない」
「そういうものなんじゃないでしょうか。自分の身の回りのこと以外、人って案外見えてないですよ。伊東さんは自分以外に心から信じられる人も、なかなか見つからなかったんでしょうし。むしろ、それで性格をつくり変える研究にたどり着いたほうがすごいです」
僕がそう言うと、伊東さんは微かに笑った。初めて見る笑顔だった。
「そう言っていただけると、嬉しいですよ。本当に、頼れる人も味方も、一人もいませんでしたから。……だから、こうして城戸さんと話すことができて、少し嬉しいんですよ」
伊東さんは再び真剣な表情になって、僕の目を見つめた。
「城戸さん、お願いがあります。あなたのクローン――ノリさんと会わせていただけませんか?」




