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「僕には、僕とまったく同じ遺伝子を持った片割れがいます」

 伊東さんが唾を飲むのが分かった。

「それは……双子とは、違うのですね?」

「はい。科学的に生み出された片割れ……クローンです。僕のクローンが、いるんです」

「人の、クローン……ですか」

 伊東さんはしばし考え込んだ。

「……私の息子が犠牲になった実験は、もしかしたら、クローン実験の前段階だったのかもしれませんね」

「実験の前段階……ですか?」

「ええ。性格をつくり変える研究もクローン研究も、どちらも遺伝子を弄くり回すという点では一致しています。クローンをつくるほうがより規模が大きいから、実験を繰り返していたのかもしれませんね」

「父が、そんなことを……」

「父?」

 伊東さんが訝しげに眉を顰めた。しまった。僕は言い逃れの方法を考えたが、浮かばなかった。ここで嘘をついても、伊東さんの信頼を損ねるだけだ。まだ僕たちは手探りの段階だ。協力しようというならば、いずれ打ち明けなければならないことだったろう。

「実は、僕のクローンをつくったのは……父なんです」

「それでは……息子の研究も、あなたのお父さんが?」

「いえ、それはまだ分かりません。父は、白鷺組の組員ではありませんでしたから……。ただ、白鷺組が父の技術力を欲していたのは確かなようです」

「そう……ですか」

「……僕も認めたくはありませんが、もしかしたら、伊東さんの息子さんが犠牲になった実験にも、父が関与していたのかもしれません。その可能性は十分にあります。もしそうだった場合……伊東さんは、僕を赦せますか?」

 僕は一体何を言っているのだろう? そんなことは、言わないほうが得だと分かっていたはずなのに。ほれ見ろ、伊東さんだって驚いた顔をしている。

 それでも、訊かずにはいられなかった。僕は、父が僕以外を被験者にしていた可能性なんて、今まで一度も考えたことがなかった。でもよく考えてみれば、他に被験者がいないはずがないのだ。ヒトクローンをつくるなどという禁忌の実験は、未知のリスクを孕んでいる。そんな実験を、ぶっつけ本番で息子に行うはずがない。他に、被験者がいたはずなのだ。

 その被験者だって、誰かの大切な子どもだったのに――。

「赦せるかどうかは……事実が分からないことには、なんとも言えません。まだ、あなたのお父さんが関わっていると決まったわけではありませんから。ですが……親の罪を子どもに背負わせるのは間違っていると、私は思います。ですからできることなら……赦したいと思いますね。実際に、そうできるかは別として」

 伊東さんらしい答えだと思った。この人はどこまでも、息子さんのことを大切に想い、それだけを原動力としてリスクを冒してここまで来たのだ。

「分かりました。……すみません、変なことを訊いて」

「いえ。あなたが私を信じるためにも、必要な質問だったのでしょう?」

 そうか。そうだったのかもしれない。言われて初めて気がついた。思ったより僕は打算的な人間なのかもしれないなと、心の中で苦笑する。

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