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伊東の回想 その二

 それからは、私が何を言っても、息子が連絡を返してくれることはなくなりました。着信拒否され、メールも見ず、メッセージアプリもブロックされていました。

 それでも私は息子の身を案じ、空いている時間をすべて見張りに使いました。探偵や知り合いにも声をかけましたが、やくざ絡みはごめんだと断られたので、私自身で見張るしかなかったのです。

 やがて、息子はとある男性とよく一緒にいるようになりました。調べて、その男性の素性を知りました。

 北神悠次、四十五歳。父は高名な医者。自身は不祥事を起こし、医師免許取り消しとなり闇医者へ。現在は白鷺組で医者をしている……。

 明らかに胡散臭い男だと思いました。だから私は、北神を調べ始めました。しかし北神はあくまでも組織の末端らしく、彼を調べても何も得ることができない日々が続きました。

 そんなある日のことでした。息子が急に、我が家を訪ねてきたのです。

「どうしたんだ、いきなり?」

「どうしたって、息子が家に帰ってきちゃいけないの?」

 そう言った息子の表情は、これまで見たことがないくらい和やかでした。しかし私は、どこか作り物のような感じがしたのです。言い知れぬ不気味さを覚えずにはいられませんでした。

「僕ね、ちゃんと仕事を探そうと思うんだ。極道なんかからは足を洗ってさ。でも、どうしてもお金がなくて。家事はするから、しばらく僕を家に置いてくれない?」

「いや、それは、一向に構わないんだが……。その、どうしたんだ?」

「どうしたって?」

「一人称も、喋り方も……。それにお前は、私のことを父親ではないと」

「あの時は、本当にごめんなさい。僕、どうかしていたんだ。でも心を改めた。もう良い子になるから。親孝行させてね」

 私は何か裏があるのではないかと勘繰りましたが、息子はただひたすらに私に尽くす、絵に描いたような『良い子』のままでした。これはこれで幸せなのだから、このままで良い……と思えるほど、私は目出度い頭はしておりません。自尊心を拗らせ、私を憎み、家を出て行った息子こそが、私の本当の息子なのです。子育てはゲームではありません。絶対にやり直すことはできません。だから私は、このように育った息子を後悔しながらも愛するしかないと思っていました。ようやくそう思えてきたところだったのです。そんな折に、息子の皮を被った『良い子』が現れたのです。

 私は大金を払い、危ない仕事も請け負う探偵を雇いました。そして、北神を調べさせたのです。

 そこで私は、北神がとある実験に関わっていたことを知ったのです。

 その被験者が、他ならぬ息子であったことも。

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