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伊東の回想 その一

 息子に寂しい思いをさせてばかりだったことを、私は今でもひどく悔やんでいます。

 まだ息子が幼い頃に妻が他界し、男手ひとつで息子を育てなければならなくなりました。両親はすでに高齢で、介護を必要とする身だったので、とてもじゃありませんが頼るようなことはできなかったのです。

 とにかく金が要りました。私は当時、新聞社に勤めて記者をやっていましたが、正直に言って儲かっているとはいえない状況にありました。とはいえ、私は幼い頃から記者を志しており、記者になるための勉強以外はからっきしでしたから、転職するという考えはまずありませんでした。ですから私は、ひたすらに記事を書き、合間に肉体労働をすることでどうにか息子を食わせていました。

 そんな暮らしですから、息子と向き合う時間なんてありませんでした。やがて息子は中学生になり、反抗期を迎えました。私に対して暴力を振るったり、夜遊びをしたり、私がほとんど家にいないのをいいことに女の子を呼びつけて性行為に興じたりと、おおよそ中学生とは思えない荒みっぷりでした。

 けれども当時の私は、気楽に考えていたのです。反抗期もいつかは終わる。そうすれば、親の苦労だって分かってくれる――と。

 しかし、現実はそう甘くはありませんでした。息子はどんどんと荒み、無理矢理進学させた高校も続かずにすぐ退学になりました。それから息子はふらりと家を出て、それきり帰らなくなったのです。

 息子が何か悪いことに巻き込まれてやしないかと心配になった私は、記者として培った人脈をフルに活用して息子の行方を追いました。そして、息子がまだ比較的新しい暴力団である白鷺組という組織にいるということを知りました。

 私はすぐに息子を呼び出して話をしました。電話にも出てもらえませんでしたが、メールで白鷺組のことを知っていると伝えると、実家に顔を出してくれたのです。

「危ないことはやめなさい。やくざなんてとんでもない。すぐに足を洗うんだ」

「はっ。そんなくだらねえことを言うために俺を呼んだのかよ。あそこは俺の唯一の居場所なんだ」

「居場所なら、ここがあるだろう?」

「今更親父面すんじゃねえよ。一度だって、お前が俺の話をちゃんと聞いてくれたことがあったか?」

 そう言われては、私も返す言葉がありませんでした。私たちに必要なのはお金ではなく、向き合う時間であり、言葉だったのです。私が忙しさを理由にして息子と向き合うことを怠ったせいで、息子は自ら危険な道に足を踏み入れてしまったのです。

「……父の最後の頼みだ。もうこれで、親子の縁を切ってもらって構わないから。最後の親孝行として、足を洗ってくれないか」

 私は床に頭をついて頼み込みました。しかし、息子の返事はにべもありませんでした。

「断る。俺、気づいたんだ。俺には力があったんだって。何にも屈さず、何にも負けない、強い力が。それを活かせる場所が、今の場所なんだ。組長は良い人だ。俺を認めてくれて、俺を実の息子のように思ってくれている。俺にとっての親父は、もう組長だけなんだ!」

 息子は床を殴りつけると、そのまま家を出て行きました。私が何度声をかけても、二度と振り返ることはなかったのです。

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