暗闇のジャーナリスト
キタガミさんに指示された場所は、家の前の通りを少し行ったところの駐車場だった。車を拠点として張り込みを行っているようだ。
黒のセダン、ナンバープレートは……。
あった。半信半疑だったが、本当に指定されたとおりの車が停まっている。
日除けの車用カーテンがかかっていて、中はよく見えない。エンジンもかかっていないようだ。
僕は恐る恐る車に近寄る。すると、いきなり運転席のドアが開いて、心臓が口から飛び出そうになった。
出てきたのは、痩せぎすの男だった。角度によって幼いようにも、老人のようにも見える不思議な顔立ちをしている。病的なほど顔色が悪く、僕をじろりと睨みつけていた。
「何か用ですか」
掠れた声で、男が言った。僕は口内を唾液で潤してから、口を開く。
「ジャーナリストの、伊東忠正さんですね?」
「そうですが」
男の顔色に、僅かな恐怖の色が滲んだ。
「あなたもやくざですか。ずっと尾けまわしてるの、気づいてますからね。いよいよ私を消しに来たんですか?」
男の――伊東さんの勘違いに気づいて、僕は慌てて弁明した。
「違います、僕はやくざではありません。……あなたが追っている事件の関係者です」
伊東さんの喉仏が上下するのが分かった。目が大きく見開かれている。僕はこの事件をしつこく嗅ぎまわるジャーナリストと聞いて、ハイエナのように獰猛で、詐欺師のように姑息で、かつ恐ろしいほどの好奇心に溢れた人間を想像していた。しかし伊東さんの表情には、好奇心はまったく滲んでいないように見えた。あるのは恐怖と――使命感、だろうか。僕もここのところ、強く感じている感情だから分かる。少なくとも、事件のことを飯のタネにしようとしているような打算的な感情は感じられない。
「事情があって、ここでは自己紹介するわけにもいかないんです。すぐ近くなので、僕の家に来ていただけませんか?」
「すぐ近く……ですか」
その言葉で、彼は何かを悟ったらしかった。
「分かりました。行きましょう。ただし、私は武器を持っています。騙そうとしたら、分かっていますね?」
か細い声だった。脅しというより、恐怖を隠そうという強がりの裏返しのようだ。妙に痛々しく感じられるのはなぜだろうか。
彼と話せば、その感情の正体も分かるかもしれない。僕はきっと、いつか彼と話をしなければならなかったのだろう。運命のめぐり合わせのようなものを感じずにはいられなかった。
どうしてだか、彼は今の僕と同じだ、という気がするのだ。
自分だけが何も知らなかった。そんな無力感を抱えて、真実を追い求めている僕と。
「分かりました。何も危害を加えるつもりはありません。信じてください、というほかありませんが。こちらです」
僕はあえて、彼の前を振り返りもせず無防備に歩いた。しばらくは殺気のような鋭い視線を背中に感じていたが、家に近づくにつれ鋭さは和らいでいき、戸惑いと恐怖を隠さない弱々しい気配に変わっていた。
それでも彼は、まったく歩みを止めようとはしなかった。




