新たな脅威
家にやってきたキタガミさんは、妙に神妙な顔つきをしていた。
僕は不安になって訊ねた。
「あの……どうかしたんですか?」
キタガミさんはやがて、呻くように言った。
「警察が嗅ぎ付けてやがる。捜索願も出てねえし、死体は組の敷地に埋めて処理した。うまくやったと思ったんだが、どこから漏れたんだか」
「警察が、って……そ、それ、本当なんですか?」
「こんなくだらねえ嘘をつくかよ」
それはそうだが、どうにも信じられなかった。いや、いつかこんな日が来ることは覚悟していたはずだが、あまりにも急だったのだ。信じたくなかった、というほうが正しい。
「とはいえ、まだ警察の方は本腰を入れて動いているわけじゃなさそうだ。さっきも言ったが捜索願はないし、タレコミを入れたのが一人のジャーナリストときてるもんだからな」
「ジャーナリスト……ですか」
「どういうわけだか知らんが、そいつはやたら熱心に今回の件を追っているらしい。被害者の身元までは知らないらしいが、この付近で死人が出たことに気づき、犯人を追っているらしいな。組のほうでも圧力をかけているが、カタギの人間に迂闊に手を出すわけにはいかないんで難航しているそうだ」
「いったいどうして……」
どうやってこの件を嗅ぎつけたのかも謎だが、どうしてそこまで熱心に追っているのかも謎だ。ひとつの記事のためだとしたら、かける労力とリスクが大きすぎる。
「クローンの……お前とノリのことは、バレたらやべえ。もしそのジャーナリストが圧力に屈せず調査を続けるつもりならば、カタギであっても組はそいつを全力で消しにかかるだろう」
「消すというのは、もしかして」
「もちろん、殺すということだ」
殺して、当たり前のように死体を消してしまうのだろう。母の死体を、そうしたように。
また新たな犠牲者が生まれてしまうのか――。
「……駄目です。そんなことは……」
「じゃあ、どうする?」
「僕が、そのジャーナリストと会って、話をつけます」
キタガミさんは驚いたように目を見開いた。
「話をつけるって、どうするんだ?」
「それは……話してみてから考えます。とりあえず、このことを追うのをやめてもらえれば……」
「まったく、無計画だな」
キタガミさんはため息をついたが、心の底から呆れているという様子ではなかった。なんとなく、キタガミさんのそういう些細な心情が分かるようになっている、気がする。
「まあ、ジャーナリストと会うのは難しい話ではないだろう。そのジャーナリストだって、取材対象であるお前と話ができるなら、願ってもない話なはずだからな」
「それなら……」
「会ってみるか? 組に連絡を取れば、居場所はすぐに分かるだろう。見張ってるはずだからな」
正直なところ、怖いという気持ちは拭えなかった。けれども、逃げることは許されないだろう。
「分かりました。お願いします」
「分かった。待ってろ。すぐに連絡する」
「電話でしたら、父の書斎を使ってください。本がたくさんあって音を吸収するし、聞かれにくいと思いますから」
キタガミさんは頷き、スマホを手に書斎へと向かう。
その後ろ姿を、僕はただ眺めていた。




