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種を蒔くのは男。
育て産むのは女。
その違いが想いの違い。
愛が違える要因。
*********
*朗side*
「いやぁっ!」
悲鳴が意識を戻すきっかけになった。
悲鳴の主は、ゆうつき?
否、優月。
「優月!」
止まらない悲鳴に、ただ抱き締める事しか出来ず。
震えて叫ぶ優月は、余りにも痛々しくて……。
... ...
「あれは、過去だ。大丈夫だから……」
「大丈夫な訳がない!」
強い口調で優月が断言し、私の腕を拒絶する様に押し退け逃げた。
「今のは何?」
優星の声でここがどこか思い出し、その訊き方に驚く。
「今のを視たのか?」
「視えたわ」
優星の答えに同意する様にその場の全員が頷いた。
知らず溜め息を吐く。
優月を護る様に優星が抱き締めて居た。
「優月は子どもを産んだのか?」
龍の確信をつく言葉。
「そうだと思う」
曖昧にしか答えられず、どちらにしても優月は辛さに耐えられず、私から離れた。
まだ“ゆうつき”の温もりの残る両手の平を見る。
この“想い”の答えは?
「その子どもが優良で……ゆうつきは、龍羽神社の娘?」
確認する様に復唱した龍が愕然とする。
「俺の血脈も優星と繋がって居ると言う事か?」
「そう言う事だね」
水先の父が答えた。
そして考える風な顔をして、
「何が生まれたのだと思う? と言うか、優良は何なのだと思う?」
と、真顔で訊いた。
突然の問いに優月さえ父を見る。
「おばあちゃん、優良は、初めての人と妖怪との混血なのよね?」
優星が確かめる様に訊く。
「そうだよ」
水先の父は再度頷いて見せた。
「僕から産まれた……おばあちゃんが?」
呟いた優月の顔色が悪い。
先程まで視て居た前世の記憶。ただの記憶にしては生々しく、優良が誕生する件は、何かに操られて居た感じがした。
そこまでを閻魔帖は視せた。それもこの場に居る者皆に。
水先の父の言葉を借りるなら、この事にも意味があると言うのか?
「今更ながら優良が何者か? と言う疑問を持った。って事かしら?」
水先の母の言い方の方がしっくり来る。
「そう。僕は何者でも彼女を愛してる。もちろん璃世もだよ」
愛しい気持ちの現れた笑顔を妻に向けて、
「今の“過去視”を通してよくよく考えてみると、“閻魔”とは特殊な存在で、“閻魔の朗”は河童の手に因って造られたらしい事は解った。
だけども、そこの始めから何者かの意思を感じるのは気のせいかな?」
自分が感じていた事を言い当てられた。
.....
但し、結ばれた時だけに違和感を感じて居た。
「じゃあ、僕は……ゆうつきは利用された?」
蒼白な顔色の優月が更に色を失う。
「そこに“想い”は無かったの?!」
その物言いに、優月が勘違いしている事に気付いた。
「私は、閻魔の朗は、ゆうつきに惹かれて居た。
操られて居たかもしれないが、“想い”はちゃんと有った!」
ただの“河童の朗”で在った時よりも確実に“想い”がどんなものかが理解出来る。
「私は、優月を愛している!」
必死に想いを吐き出す。
が、言葉にしても伝わらないなら意味が無い。
「きっとそんなのは思い違いだよ。だって、今の僕は男なんだから」
「性別は関係ない!」
「閻魔の朗はゆうつきの性別に合わせたって言った!」
それには言葉を失った。
.... ..
「なら、ゆうつきは閻魔をどう想ってたの?」
優星の助け船に安堵して、黙って優月を見る。
「―――判らない」
少しの期待が打ち砕かれて、身体から力が抜けて行く。
*優月side*
―――判らない。
そうとしか答えられない。
「だって。傍から見れば、朗は付け込んだんだよ!」
.
―――私は愛だと勘違いして居た。
「根本には愛が有った筈だ」
先輩が言った。
―――それで産まれ出たのは私の“想い”
..
「私はっ!」
..
「優月。しっかりなさい。
....
今の貴方は“ゆうつき”ではないのよ?」
―――ゆづき? 私は優月。僕は優月。
.
「あ……。僕?」
ゆうつきはショックだったんだ。
と言うか、僕、優月の感情が交ざって混乱してた。
「僕は、ゆうつきは、またあんな想いをするのが嫌だった。
...
だから性別を変えたんだ」
―――傷付きたくなくて。
それに。
―――朗と、離れたくなくて。
そう。
.... ....
ゆうつきは、閻魔の朗と離れたくなかった。
離れたくなかったんだ。
「もう“朗”と離れたくなかったから……」
言葉にすると、胸が痛くなった。
目尻が熱くなり、頬を涙が伝う。
だから、気付いた。
“想い”が言葉になる。
「だって、僕は……やっぱり、朗が好きなんだ」
言ったと同時に温かい腕に包まれた。
河童の冷たい筈の体温が、温かい熱を持って、僕を抱き締めて居た。
「私は、優月を愛してる!」
叫ぶ様に告白されて、今度は否定出来なかった。
背中に腕を回し抱き返す。
『やり直させたかった』
不意に聞こえて来た声に顔を上げる。
どこから?
皆にも聞こえたらしく、声がした方へ視線が集まる。
朗のお母さん?
違う……その腕に眠る、優良?
そう感じた次の瞬間、優良が淡い光を纏い、宙に舞い上がった。
『やり直させたかった。
なのに、物事は上手く運ばない事もある』
声が確かに聞こえる。
語るは赤子の河童。
『本当に始めたのは私。
罪深き産みの女神』
淡い光はやがて形を変えて、
『国産み、神産み、人産み、妖産み。
この世の全ての母……』
淡い光は消え、そこに立つは緑の肌を持った河童の少女。
『私は、イザナミ』




