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だが、自由とは何か?
不意に雷の音が響き、雨がポツポツと降り始めた。
雨は強くなり、雨粒は容赦なく体を叩く。
見上げた空は黒い闇。
下を見ると、川に体半分が浸かって居た。
移動し、素足で土を踏みつける。
「ここは、瑞雲村と言う。妖界と冥界と人界を繋いで居た土地だ。
遠い昔から壁の役目を果たしていた土地だ。
だが、ほら。聞こえないか? 壊れる音が―――」
背後から聞こえる河童の静かな声色が水音に負けず不気味に響く。
「壊れる音?」
振り向くと、河童は首まで川に浸かりこちらを見ていた。
「壁が壊れる音。三界を隔てる壁が壊れる事は想定して居なかった。
これは、私の思い描いた結末とは違う」
言葉に映るのは動揺?
.....
「私の憎しみに囚われた心が自由になる代わりに、他のものも自由にしてしまった」
雷音が空を轟かす。
いや、これこそが壁の崩れる音?
河童は空を見上げて尚も続ける。
「このままでは、三界が交わる混沌とした世界に変わってしまう。
ここを手始めに、それは世界へと広がる」
河童が空を見上げたまま、さらに続ける。
「いっその事、そうした方がいいのかもしれない」
河童の心の内を表す様に、雨が激しさを増す。
―――ドオンッ!
大きな音と共に地面が揺れた。
音のした方向に目をやると山が見えた。
「雷が落ちた。あれは……神社のある場所だ。早く行った方がいい」
神社?
龍羽神社。ゆうつきが居る?
助けなければ、今度こそ死んでしまう。
もうそれしか考えられず、河童を残し、踵を反し走る。
ゆうつきだけを想い、彼女の強い魂を求め、ひた走る。
気付けば長い石段の続く山の麓に着いていた。
見上げると、真っ赤な鳥居が目に鮮やかに映る。
あの鳥居の下にゆうつきは居る。
*ゆうつきside*
揺れを感じて、そのせいで辛うじて開いていた空間が崩れて、とうとう息が出来なくなった。
朗。
あれは夢、幻だったのかもしれない。
今から旅立つ所を垣間見た、そう言った事だったのかもしれない。
もしまた朗に逢えるなら、これはこれで良いのかもしれない。
苦しさが、
胸を潰して行く。
意識を失う寸前だった。
―――ゆうつき!
声が聞こえた。
朗の声が。
次の瞬間、体が軽くなって、突如として苦しさが消えた。
何が起きたのか判らなくて、むせる。
咳き込み、口内の土と石を吐き出す。
眼球に入った土が視界を霞め痛さに涙が零れる。
胸の痛みが咳き込む度に増し、いきなりつっかえが取れて大きく胸が膨らむ。
空気が飛び込んで来た。
生きている証。
これが生きてるって事。
見えにくかった目が顔を打ち付ける水、雨? で洗い流されて、視界が開く。
「ゆうつき!」
耳元で声が聞こえた。
それに強く抱き締められて居る事にも気付いた。
「……ろ……う?」
嘘みたいな真実。
これは現実?
それとも、夢?
視界が徐々に開けて行き、目の前の朗の顔がはっきりと見えて来た。
赤い髪。
雨に濡れた顔が心配げに私を見ている。
「朗」
何だか雰囲気が違う。
「迎えに来た」
しっかりと抱き締められ、触れた箇所の温かみが現実だと解らせてくれた。
「迎えに来ただと?」
震える低い声が朗の背後から聞えた。
父の声だ。
「お主は誰ぞ!?」
肩越しから見ると、篝火は消え、その後ろに宮司である父と巫女で妹の玉響そして村の村長に見守り人。
生け贄を滞りなく進める為に集まった村人達がこちらを見ていた。
「何故? 生きて居るんだ?」
恐れを纏った声色。
「埋められて十日は過ぎて居る」
ざわざわと広がる声。
十日?
普通なら死んで居る筈。
「霊力が命を繋げた」
朗が言う。
「主は誰ぞ!」
再度父が聞いた。
......
「閻魔だ。あちらの世界でゆうつきを見初めて迎えに来た」
「閻魔?」
それは畏れを含んだ響きを持った呼び方。
「冥土から来たと言うのか? たが、ゆうつきは龍神に捧げた贄だ!」
ドオン!
暗い空を眩しい光が走り、大きな音が鳴り響いた。
それが何度も繰り返される。
まるで何かが起こる前触れの様で恐ろしい。
そう、私は龍神の生け贄。
この神社は、龍神を祭る神社。
龍神が棲まう土地に建てられたのだから自然と言える事。
でも、実際に私が死して出逢ったのは朗で、龍神の気配さえなかった。
「龍神様の罰が下るぞ!」
ドオンっ!
父の言葉と同時に雷鳴が凄まじい音と地響きを立てた。
「怖い……」
無意識に呟いていた。
「大丈夫だ。ゆうつきを誰にも渡すつもりはない」
朗の声。
何だか逞しく、頼もしい。
変な言い方だけれど、あの場所での朗と、今目の前に居る朗は似て似つかない。
「私は、ゆうつきに惹かれ朗と言う個を持ったんだ」
私の疑問に答える様に語る朗を意識して、頬が熱くなる。
よくよく見ると、朗の肩幅は広く、以前より―――よく考えればそんなに朗を知らないけれど―――男性らしく、声も低い。
「性別を、手に入れた。ゆうつきは女だ。だから私は男に成った」
意外な告白で驚いた。
「閻魔には性別はない。それに冥界を出る事もしてはならない事だった」




