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―――私は、ゆうつき。
「僕……僕は、ゆづき」
混乱してる。
だって、自分の中で聞こえる声は、確かに自分だと理解してる。
高い女性の声。なのに自分だって解ってる。
そう。女性だった。
朗の綺麗な顔を見上げて、何故か訊いていた。
「僕は前世で……何かしたの?」
戸惑う朗。
でも誰かに訊く。その誰かは朗しか考えられなかった。
「何も……まだ思い出せない」
「閻魔帖に触れたら判るかな?」
呟く様に出た言葉。
それに呼応する様に背後に温かみを感じた。
それが“閻魔帖”で在ると見なくても解る。
―――離れるべきじゃなかったの。
誰と?
―――愛しい人。
それは?
―――朗。
朗?
―――閻魔の朗。
「僕は、知らないといけないんだ。朗との関わりを……赤髪閻魔との関わりを」
―――愛しい閻魔の朗。
*朗side*
赤髪閻魔の朗。
優月の声は胸の奥に潜む何かを揺さ振った。
背中に感じる熱い熱が全身を包む。
それは閻魔帖。
閻魔帖から強い光が放たれ、一瞬で優月と私を包み込んだ。
優月を強く腕に抱いて、その衝撃に体を固くし、目を瞑り耐える。
程なくして光も、そこに在る筈の全てが消え失せ、目を開くと何もない空間に浮かんで居た。
しっかりと腕に抱いた優月が、小さく震えた。
「ここは?」
足元を覗き、四方が何もない空間である事を確認し、私に強くしがみ付いて来た。
「落ちないよね?」
私を見る優月の心細そうな目に安心させる様に片手で背中を擦り、
「恐らく、これは閻魔帖の視せる幻だろう」
自分の見解を話す。
「そうだね」
不安げに周りを見渡して、大丈夫だと確信したのか、優月が体の力を抜いた。
「僕らはどうして生まれ変わって来たのかな?」
誰に問うでもなく言った優月に反応する様に、風景が一変する。
高い尖った山々が広がる干からびた大地。
そこを一人歩く、長い黒髪の女性。
「あれは、僕だ。
優月って書いて“ゆうつき”って言う、僕の前世の姿」
優月が食い入るように見つめる先は、岩壁がそびえ立つこの世界の境目。
岩壁は長く大地を隔てて横に伸びていた。
そこへ向かってゆうつきは歩いて行く。
「いつの間にか此処に居たんだ。
記憶も曖昧で、自分の名前だけを覚えていた」
私達は見えない球体の中に居て、何者かの意思によって空を移動する。
球体は、ゆうつきの姿が間近に見える場所で留まる。
ゆうつきは線の細い女性でシンプルな白い着物に身を包んでいた。
突如吹いた強い風に煽られた髪を煩わしげに抑えつけ、ゆうつきは私達に気付いた様に立ち止まり、空を仰ぐ。
見えた顔は、まるで優月がもう少し成長した感じでドキリとした。
「僕に似てる……」
しばらく空を見つめて、また歩き出す。
黙々と歩む。
何か目的がある様に。
やがて岩壁が立ちはだかる場所まで来ると、途方に暮れた様に腕組みをし、首を傾げる。
壁の両端からまがまがしい妖気がゆうつき目がけて瞬時に押し寄せて来た。
“餓鬼”の集まり。
甲高い悲鳴を上げたゆうつきが地面に倒れると同時に、彼女の前に立ちはだかる赤い影。
赤髪の、閻魔。
「あれは、朗」
優月が呟いた。
赤い長髪が上下する。
「閻魔の朗」
自分でも確信する。
閻魔がゆうつきの前へ降り立つ。それまでに、襲い掛かって来た餓鬼共は一匹残らず消滅していた。
「女。何故此処に居る」
問いながら閻魔が振り向いた。そこへゆうつきが突進して、見事に二人して地面に倒れた。
「―――恐かったぁ」
ゆうつきは閻魔の上に乗ったまま言葉を吐き出す。
「お前は、何だっ!」
上に在る重みを撥ね除ける様に上体を起こした閻魔の動きが止まる。
口を開けたまま、自分の上にかぶさったゆうつきを見て……見惚れて居た。
そうだ。
出逢って初めから、その魂の強さに惚れてしまったのだ。
交差する想いが、
私は“閻魔”に、
優月は“ゆうつき”へと、その意識と同化して行く。
私達は出逢ってしまった。
*********
“人界”人間の世界。
“妖界”妖怪の世界。
人間から、妖怪。
更には動物から虫に至まで魂の行き着く世界を“冥界”と言い“閻魔一族”だけがそこには存在して居た。
“冥界”を、人間は“冥途”妖怪は“暗黒世界”と呼び、畏怖し死に至までは行く事のない場所。
誰もが避けるそんな世界に生きる“閻魔”は死に逝く者を導く一族。
二界では男女の営みから子孫を成す。
いわゆる“魂の器”を産み出して居る。
冥界に集まる魂を浄化させ“魂の器”に戻す役目を閻魔一族が担って居た。
その閻魔の誕生の仕方は、冥界の中心に在る命の泉に咲く赤い大輪の花から産まれ出る。
全ての者が赤い髪と黒い瞳を持って居た。
そして、花から産まれる閻魔は皆一様に“無性”であった。
閻魔はそう在るべき定め。




