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河童様  作者: なぁ恋
愛情論理
26/70

 

二回目の涙。


何故泣いたのか、理解して居なかった。

呆気にとられて……簡単に泣く様な人じゃなかったのに。


それさえ判らない程、私も混乱してた?


実際にはそうかもしれない。


だって眠れなかった。

いつもの様に鏡で自分に暗示をかけた。けど、何事もなかった様には居られる筈がなかった。


響夜くんが好き。

それは紛れもない事実だけど、彼の話を聞きたくなかった。


だから泣いた。

私を見抜いて、傷付いて。


盛大に溜め息を吐いていつもの私の席に着く。


「こほっ……溜め息は幸せを逃がすって言うよ」


何故かむせながらゆづが言った。


「そうね。

母さん。二人分の珈琲を用意してくれる? 今度こそちゃんと話して来るから」

 

だってやっぱり響夜くんが好きな気持ちは真実を知ってからも変わらないんだから。


 

*響夜side*



涙が留まらない。


俺は、産声さえ上げなかったのに。

二回。簡単に涙が流せるなんて思いもよらなかった。

驚いて部屋を飛び出した。



優星。彼女の瞳は俺を映してなかった。


最初に出逢った少女の時の方がしっかりと俺を見てくれていた。


学校で再会してからの三年は、影から着かず離れず、見てくれていた。


なのに“好きだから”と目の前で言う優星は、俺を見ていない。


これならまだ、忘れられていた方がよかった。


俺の、自分の気持ちを自覚せずにすめば、こんなに苦しくはなかった。


憎む事より、愛する事の方が辛いなんて、知らなかった。




この部屋は河童の匂いがする。

さらにその匂いの強い布団に潜り込んで身体を丸め息を殺して泣く。


河童の匂いに落ち着いて、だが、そんな癒しにも心の傷は治せない。



俺は、どうすれば良いんだ?

どうすれば良かったんだ?


 

力は欲しい。

けれど、優星を失うのは嫌だ。


考えて考えて、

どうしたってこの結論に辿り着く。


眠れずに涙にくれた夜。

とっくに朝になってるのは判っていた。


そして、夜を母の傍を離れて過ごしたのは初めてだ。と言う事に気付いた。


にわかには信じられない事が重なって起きた、長い一日だった。



「はあぁ~……」

大きな溜め息が零れ出て、このままでは居られない。と、上半身を起こす。


“信じられない事”とは自分の存在もそうだ。



布団から出て座る。

優月は、夏だと言うのに厚い布団を使っている。


布団が温かくても、夏でも冬でも俺には関係ない。


俺は体温を感じる事が出来ない。


だから服も意味はない。

こう言った布団も俺には意味がない。


 

温かさも寒さも感じない躰は人成らざるものである事を体現させられているのだと、お前は人間じゃないんだと責められている証だと思っていた。


夜は全裸になって、母の水に浸かる。

母の傍だけが俺の居て良い場所だと思っていた。


そこで水に揺られ眠るのだ。


だが、その水も父親龍の元に繋がる道になって居ると河童が言った。


ならば、

俺の居場所はどこにあるのだろう?


優星を抱き寄せた時、その体が“温かい”と感じた気がした。何度もそう感じられた。


優星に拒絶されたら……俺は―――。



ノックする音と同時にドアが大きく開かれた。


そこに下を向いて佇むのは優星。


「ごめんなさい」


小さな声が謝罪する。


手に持ったお盆には湯気のたつ珈琲が二つ。


顔を上げた優星が一気に真っ赤に色付く。


そしてお盆が傾いた。


珈琲が落ちたら優星が火傷するのは目に見えて明らかだ。


 

*優星side*



先手で謝る。

これを実行する為にドアノック。返事を待たずにドアを開けて頭を下げる。


頭を上げて、






びっくり!


響夜くん。

全裸でベッドに座ってるっ!


うわっ!

細くて引き締まった身体。

肩の、腕の、筋肉が凄い。胸板もちゃんとあって、腹筋割れてて……その下っ。





顔は熱いは驚くわで、手に持ってたお盆の存在を忘れてしまってた。


落とした。って判った時には遅くて、熱さが来るのに構え身体を固くする。





熱くない? 恐る恐る目を開けると、見えたのは白い髪。


「大丈夫か?」


響夜くんが身体を張って庇ってくれてた。

目にも留まらぬ早さで私を抱き寄せ、足元に零れた液体は響夜くんの足を直撃していた。


「足、熱いでしょう?!」


黒い眼球に白い瞳の響夜くん。その目を細めて哀しく笑う。


哀しそうで。切なくなった。

 

 

「熱さは感じない。熱だけじゃない。寒さも……お前を抱き締めて居ても、その体温を感じる事は出来ない」


哀しい瞳。


その身体に擦り寄ると、

響夜くんがビクッと身体を震わせた。


「きっと、大丈夫。私が、解る様にして上げる」


額の鱗が熱くなって、それを無意識に響夜くんの胸に押し付けた。


「つう?!」


響夜くんの声。

驚いて顔を上げる。

丁度額を擦り付けた場所が、赤く色付いていた。


「大丈夫?」


「……ああ」


驚いて動揺し、困惑した顔をした響夜くん。


「うわッ!」


胸を押さえその場に膝を付いてしゃがみ込む。


私の額が当たった箇所が赤み掛かって、その赤みが膨らみ、何かが浮き出てきた。


それは、虹色に光る三枚の鱗。上に二枚、その間から下に一枚が生えていた。


「これは?」


響夜くんが信じられない。って顔して、鱗に触れた。


「鱗。私とお揃いね。

響夜くんの方がサイズ大きいけど」

 

 

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