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落ち着いて、辺りが見えて来て脱ぎ散らかされた学ランに気付く。
きっちりした感じの響夜くんのイメージが、違って来た。
私の前で泣くし……泣き顔、可愛かったし。
鱗を触る。
丁度心臓辺りに生えた鱗。
波打つ心臓の音が手の平に感じられて。
それに、その肌は温かい。
「響夜くんはあったかいよ」
本当に素肌に触れてるからか熱いくらいに熱を感じる。
……素肌。
裸体。思い出して顔が熱くなる。
「俺には、優星の方が温かい」
「え?」
顔を上げると、視線が合った。
龍の姿をした響夜くんは野性的で綺麗だ。
頬を挟まれ、唇が重ねられた。
吐く息も温かい。
「……涙を見せるのは私だけにして?」
「ああ。優星だけだ」
ギュウッと抱きすくめられて、幸せを感じた。
「“ルージュ”には、私のこの姿のままで成れる気がするの」
指で生えた鱗を撫でると、響夜くんが溜め息を吐いた。
「この鱗から、優星に触れられると“力”が流れて来るのが判る」
一瞬の間の後、
「心地好い。いや……気持ち良いんだ」
そう言った響夜くんが私の頭に顔を寄せて、髪に頬を擦りつけた。
互いに、腕を回して抱き締め合った。
私達は大丈夫。
そう確信出来た。
「響夜くん。大好きよ」
「優星……俺も」
幸せ過ぎて、温かくて、眠くなって来た。
そうだ。私、寝てなかったから……。
そうなると欠伸まで出て、眠いままに、身体を横たえた。
響夜くんのたくましい腕の中で、優しい匂いのする布団に潜り込んで。
*優月side*
「ご馳走さまでした」
一人で朝食完食。
「はい。さて、朗くんにクロスちゃんの朝ご飯、どうしましょう?」
「離れに持ってく? なら服に着替えて来るからさ、その間に作っててよ」
僕も食べて頭がはっきりしたから、もう朗に惑わされない。
階段を上がって自分の部屋のドアを開ける。
あれ?
足元の湿り気に転がったコップ。
それに脱ぎ散らかされた学制服。冬の学制服は、先輩が着てた?
そおっと、自分のベッドを見ると、大きな膨らみが……「ね!」姉ちゃん。と叫びそうになり、手で口を塞ぐ。
二人は、気持ち良さそうに寝息を立ててた。
必要以上にくっついてる二人を見て、やっぱり付き合う事になったのかな?
とか抜けた事思って、ふと考える。
付き合うとか、そう言った関係じゃないよね。
先輩は龍で、
姉ちゃんは龍の宝珠。
龍と宝珠は一対で完全。
イメージ的にそんな感じ。
完全体に成った時、先輩はどうするつもりなのかな?
父親龍をお母さんの為に倒すって、出来るのかな?
僕だって完全に河童に成ったらどうなるんだろう?
河童に成ったら朗に着いて行くって約束した。けど、だけど。
“愛してる”
“好き”
朗の声が聞こえる。
……今度は幻聴。
頬が熱くなる。
そんなの言われた事ないし、考えた事もなかった。
落ち着かない。
朗の傍に居ると、何だか気持ちに余裕が無くなる。
束縛されてる感じが嫌だ。
河童の隠れ里は、河童しか行けない場所。
朗と、二人きり。
何の覚悟も出来てない自分。
覚悟。
河童に成りたくてなった訳じゃないけど、朗が助けてくれたから今の僕が在る。
考えれば考える程、悩みが増えてくみたいな感じ。
何にも考えたくなくて、先輩の服を拾ってハンガーにかける。
と、濡れたカーペットを踏んで、ビシャとした感覚……これって水だよね?
朗は池の水を操った。
丸い球体にして。
僕にも出来るのかな?
“水分を球体に”
手をかざし集中する。
指先が痺れ始めた。
チリチリする感覚が手の平全体に広がると、カーペットの染みが小さな数粒の水玉になって宙に浮く。
それが宙で一塊の球体になった。茶色の水玉。
「出来た! と。とと……」
慌ててカップを立てて、ゆらゆらする水玉を移動させ落とす。
パシャと、くっつけた二つのカップの間を零れた液体。
半分は零れてまたカーペットを濡らした。僕にも出来る。
クロスを治して、水玉が作れて、握る拳に力が入った。
姿見が扉になってるタンス、その鏡に映った自分の姿が目に入る。
どこをどう見てもいつもと変わらない自分。
けど。目が、左の瞳に輝く星。それは河童の証。
あれ?
眼鏡、壊れた後予備の眼鏡はあったのに、するのを忘れてた。
何でかけてないのに気付かなかった?
だって、眼鏡なくてもはっきりと見えていたから。
「力が使えたのか?」
いきなりの朗の声が背後から聞こえて驚いた。
「な、に?」
「水を操る力の流れを感じた」
「そうなの??」
朗なら解るかな?
「僕、視力悪かったんだけど、見えてるんだよね。普通に」
戸口に立ってた朗が近付いて来て、背中に張り付いて……文字通りくっついた感じ。それで僕の頬に顔を寄せて目線を合わせた。
「自らを治したんだろうな」
鏡に映る二人の姿。
綺麗な朗の顔。僕の幼い、女の子の様な顔。
ムカつく。
朗は、僕を女の子だと思ったって言った。
文句を言おうと口を開けた時、朗が何かに気付いた様に後ろを振り向いた。
無言で僕から離れてベッドに行くと、姉ちゃんと先輩がくっついて眠ってるのをじっと見つめる。
あ。また、学習してる顔。
「次に「そうやって眠るのは不自然だから」
朗の言葉を遮って、釘を刺す。
「でも」と、指差すのは寝ている二人。
「二人は良いの! 恋人になったんだから」
イライラして来た。
「キスするのも、好きって言うのも……愛してるってのも、恋人とか夫婦が使う事で言葉なの!」
肩を怒らせて言い切った。
「そうなのか?」
考える様に首を傾げた。
「そうだよ」
「そうか……」
朗が見るからに落胆して肩を落とす。
それを見た僕は、
嘘みたいに胸が“きゅんっ”とした。
「絶対。違う……」
自分に言い聞かせる様につぶやいた。




