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河童様  作者: なぁ恋
愛情論理
25/70


*優月side*


 

 

おばあちゃんが好き。


母さん父さんが好き。


姉ちゃんが好き。


クロスが好き。










河童様が好き。


朗が?





 

 

夢見が悪くて、起きた後の体のダルさに溜め息を吐く。


「大丈夫ニャのか?」


クロスが心配げに身体をすり寄せて来た。


「あぁ、うん。大丈夫さ」


“好き

愛してる”


いきなり朗の声が聞こえた気がした。


ひょんな時に思い出しそうだと困った。


「河童。うるさいニャ。まあだ言ってるニャあ!」


クロスの言った事にぎょっとする。


「空耳じゃないの?!」


はい。

僕の背中に張り付いてる冷たい身体が、朗だと気付くのにそう時間はかからなかった。


「はあぁ~……」溜め息が出た。


「溜め息の数程幸せが逃げると言うぞ。その溜め息を塞いで留めてやろう」


朗の冷たい指先が、僕の喉を下から上へツツツーと撫で上げる。

「うわっ」て、反射的に声が出て、顔が自然と上向く形になった。


で、目に飛び込んで来たのは、朗のどあっぷ。


「ニャあっ!」


目の前を飛んで朗の顔に張り付いたクロスの二股尻尾が見えた。


頼もしい。

頼もしいったら(泣)

 

 

脱力しながら母屋に入ると、良い匂いがした。


「あら、おはよう。優月」


珈琲片手に微笑んだ母さんは、いつもと変わらない母さんだった。


「おはよ。珈琲僕のもある?」


「もちろん。朝食も食べる?」


頷くと、


「朗くんも……離れに持って行く?」


慌てて首を横に振ると、


「何かされたの?」


「何って。何さ?!」


「あんたはすぐに顔に出るからね」


「何の事だか。

それより、父さんは?」


話をはぐらかして話題を変える。と言うか変えて?

必死に目で訴えると、鼻息を吐いた母さんが、父さんは仕事に行ったと言う。


「運転して?」


「そうよ。いつもと一緒よ」


台所の椅子に腰掛けると同時に目の前に珈琲が出された。

 

 

「大丈夫よ」


にっこりと満面の笑みの母さん。

その顔を見ると安心出来た。


「そうだね。姉ちゃん達は?」


「さあ、まだ起きて来ないわよ」


ふ~ん。と、珈琲に砂糖とミルクを入れる。


「どうするのかな?」


「本人次第ね」


口に含んだ珈琲が喉を通る。

母さんは包容力ありすぎ。放任主義と言うか。何と言うか……。


「成る様にしかならないのよ」


コンロに火を点けながら母さんが呟いた。


その背中に見えるのは、いつもの穏やかさ。


「違うわね。成る様に成る。だわ」


「そう?」


「そうよ。優月も“河童”に成る運命だった」


ふふふ。と振り向いた母さんが、


「河童の池の前で歌う優良の傍に、あんたは必ず居たのよ。

“河童の能力を学習させる隠し言葉”の詰まった唄を、あんたは聞いて育ったの」


カップを落としそうになる。

 

「優星も同じ。龍羽神社のお祭りが大好きで、そして、優良の命が消えそうになった時、二人共“その場所”に居た」


それはまるで“運命”の様に。

 

 

*優星side*



私は響夜くんが好き。

だから貴方の好きにしてって言っただけなのに。


何でこんな事になっちゃったのかしら?


冷たい水で顔を洗い、鏡に映る自分を見つめる。


「うん。今日も可愛い」


暗示をかける。

自分自身に。


“言葉”にしたら“本当”になる。


そう教えてくれたのはおばあちゃん。


『固く固く信じれば、本当になるんだよ』


長い髪を二つに分けて、いつもの様にツインテール。

上手く結べたか鏡で確認する。

ふと、前髪の間から光る額の鱗が目についた。


龍の印。

龍の宝珠に成る乙女の印。



「“りゅうのほうじゅ”は、言いにくいわよね。龍の(たま)龍珠(りゅうじゅ)……そうだ! “ルージュ”って呼びましょうよ」


昨晩、そう提案してから数分後、響夜くんは―――……




泣いてしまった。


 

「私は“絶対”大丈夫!」


ちゃんとそう説得しなきゃね!

 

 

響夜くんは何の前触れもなく泣き始めた。

それに一番驚いたのは、彼自身で、顔を隠す様にして部屋を飛び出した。


一人残された部屋で考える。


私はただ、ルージュに成っても良い。

そうしたらお母さんを助けられるでしょう?


そう言って笑っただけ。


話らしい話をしないまま響夜くんは居なくなった。



優月の部屋の扉を見つめる。

響夜くんはまだそこに居るとすぐに判った。

取り敢えずは本人が出て来るまではそっとしておこう。


私はいつもの様に階段を下りる。


そして、美味しそうな匂いに喉を鳴らす。


「おっはよー母さん。ゆぅづ!」


「おはよ」


ゆづが食パンを噛りつつ挨拶を返す。


「おはよう、優星。あんたも食べる?」


「食べるよ! 目玉焼きは二個にしてね」


いつもと変わらない風景。でも、やっぱり違うかな?


「響夜くんは?」


「まだ部屋に居るよ。寝てるのかな?」


母さんが知った顔して私に言った。


「また、ワガママを通そうとしたのね」


「え? 違うよ。響夜くんが必要なら私は構わないって言っただけ」


「あんたは……響夜くんの話を聞いてあげた?」


「……いいえ。だって好きな人の役に立てるんだから私に文句はないのよ」


母さんが真面目な顔をして私を見る。


「あんたを失うかもしれない。それは恐怖よ?

彼の母親の事を忘れた訳じゃないでしょう?」


あ。

考えてなかった。


それじゃ、やっぱり泣かせたのは私?



 

 

 

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