写本と古文書
「やった、本物だわ」
プーミはガラスケースに近づいた。
「プーミさんダメですよ。どんな仕掛けがあるのか分かりません」
「むむっ、そうね・・・」
クンクンクンと鼻を嗅ぐと、埃っぽさの中に一層濃くなった本の匂いが感じられた。
相も変わらず通路と同じで、部屋の四隅にも本で満たされた本棚が置かれたいた。
人が立ち入ることがないのだろうか?
古文書が展示されているといっても、マナ教徒のみ立ち入りが許されている。そのせいで、世間から忘れ去られてしまったのだろうか?
「ユイ。写本の全てを記録できる?」
「はいっ、問題ありません」
ユイは写本を手に取ると、最初のページから読み始めた。
善は急げ。
見学に来たわけでないのだから、早く用事を済ませて立ち去ったほうがいい。
同じフロアにいるマナ教徒がいるのも気がかりだった。
プーミはガラスケースをゴソゴソと調べていた。
「プーミさん?」
「大丈夫。ケースに触れはしないわ」
プーミはガラスケース越しに両手を翳すと目を閉じた。すると、プーミの手の平が光りだすと同時に、古文書が柔らかい光りをまとい出した。
「それも魔法ですか?」
「その通り。私はユイちゃんのように本を一字一句記憶するなんてとても出来ない。でも、魔法があれば本の《記憶》を魔法情報として取り出すことができるの。私にあるのはこれだけなんだけどね」
謙遜も嫌味もない、淡々とした言い方だった。
「魔法専用の道具があれば魔法情報を形あるものに変換可能なのよ」
変換可能と言われても、リーリにはさっぱり意味が分からない。
何をどうやって本の内容を取り出すのだろう。
口から出まかせとしては目が真剣だ。
(この人は一体だれなんだろう)
喋る者がいなくなると、携帯ランプの灯が部屋を照らすだけになった。
手持ち無沙汰になったリーリは壁にもたれかかった。
改めて見ると、プーミの行っていることはリーリにとって不思議そのものだった。
得体の知れない人、という印象は消えていない。
ただ、危険な香りはしない。
明るい場所に出ると、朝、お店で見たプーミと変わらないように見えた。
馴れ馴れしい話し方もそのままのように思える。
長いブロンド髪を綺麗にまとめている様子もそのままだ。
ウェイトレスの服装ではないけれども、この場所と似つかわしくない格好をしているのが変に浮いている。
そもそも、プーイはどうして謝肉祭の日にギーリク大図書館に侵入しようとしたのだろう?
自分とユイがここにいるのは偶然だ。
原因は自分にある。
でも、プーミは違う。
この日を選ばなくても、侵入する機会はいくらでもあるだろう。
「なぁに、リーリ君。どうして私をジロジロ見ているの?」
「何でもありません」
無事、古文書にたどり着けた。
けれども、リーリには釈然としない気持ちが残った。




