マリオネット
「質問の半分しか答えていないわね。どうやって古文書を読み解くつもりなの?私には魔法がある。リーリ君達には何があるの?」
プーミは間を置かずに問いを重ねた。
「ユイは機械人形です」
「機械人形?」
プーミは素っ頓狂な声を出した。
どう見たってユイは人だ。人にしか見えない。今朝お店で見かけたときも、裏口で出会ったときも、そして今も、ユイが機械人形とは思えない。
そんなプーミの驚き方だった。
「・・・本当?」
「本当ですよ」
「機械人形・・・私は機械についてチンプンカンプンだし、ちょっとだけマナに詳しいただの魔法使いだわ。でも・・・ユイちゃんが機械人形だなんて信じられないわ。機械人形は何かの役割を与えられて造られるものなんでしょう?与えられた役割があって初めて“人形”として生を賜る、それが機械人形ではないの?私の目がおかしくなければ、ユイちゃんは手足を縛られず自由に振舞っているように見える。まるで人のように。自分で考えて、自分で決めて、自分の言葉で伝える。ユイちゃんはそれを自然にこなしているわ」
ユイがプログラムされた機械人形とはとても思えない。
自由な機械人形って首輪を繋がれてない子供と一緒なんじゃない?
プーミからそんな訴えが聞こえてきそうだった。
「今日一日、謝肉祭に盛り上がるコーバリを歩き回りました。僕の目にはコーバリで働く機械人形も自由に街中を行き来しているように見えました。ユイだって、この街で働く機械人形が持つおおらかな雰囲気を身につけているだけですよ」
「そう・・・なのかしら?」
プーミの視線は斜め上の宙へ向いた。
人と見間違うほど似ている機械人形は多く存在する。
手足の動き、指の動き、関節の曲がり方、体の動作、それらの全てが人とそっくりに造られた紛い物。会話をすれば人か機械仕掛けのマリオネットかということは直ぐに見分けがつく。
人型機械人形の主な役割は対人コミュニケーションだ。その役割を全うするにはゴツゴツした姿の機械人形より人型の方が都合良い。猫や犬と同じ姿でも対人コミュニケーションを行うことは可能だ。けれども、多くの人が人型機械人形を側に置くことを望む。
それ以上の理由はなかった。
だからこそ機械人形にとって人の姿は与えられた役割に対するコスチュームであり、仮面以上の意味はなかった。
「ユイは自由。プーミさんがそのように感じるのであれば、ユイは自由なんです。タネも仕掛けもありません。ユイが生活を送る中で自然に身につけた振る舞い方なんです。だから、人か機械人形か、その間に大きな溝はないんだと思います。今プーミさんが感じているように」
例えば、とリーリは言葉を続けた。
「ユイは地図を見ずに歩いています。それが出来るのは頭の中にギーリク大図書館のフロアマップを広げているからなんです」
言われてみれば、と言った表情でプーミは頷いた。
「目的を持たずに何をすればいいのか判断できるなんて凄いわね。自由を与えられると何をしていいのか分からない大人は沢山いるわよ。何をすればいいのか教えて下さいと恥ずかしげもなく尋ねる人もいる。そんな人たちと比べると、ユイちゃんの方がしっかり者に見えるわ」
照れているのか、ユイはプーミの言葉に対して何も言わずに前を向いて歩いていた。
「プーミさんの初めの質問に答えると、古文書についてはユイに読み取ってもらう腹なんです。ユイは古文書を読みこなすほどの知識や経験、能力を持っていません。今、ユイに出来ることは物事をくまなく記憶することぐらいです。でも、今はまだそれでいいと考えています」
これは、偽らざる本音だった。
マナに詳しくなりたい。
詳しくなる必要がある。
だけれども、急ぎ足でゴールを目指して道に迷ってしまうと取り返しがつかなくなる。
《急がば回れ》よりも、《急いてはことを仕損じる》だ。
「プーミ、腹を立てましたか?」
「腹を立てるなんて・・・ただ、ただ、驚いているだけよ」
プーミは小さな声でつぶやいた。
それほど驚くことなのだろうか?
機械技師であるからなのか、ユイと四六時中一緒にいるからなのか、あるいはユイは自分が作った機械人形だからなのか、ユイが人と同じように振舞うことは(それでも違和感を憶えることも多いけれど)リーリとすれば自然だった。
だからこそ、プーミの様な警戒とも取れる受け身な反応をされると、リーリ自身、戸惑いを憶えた。
「リーリ」
前を歩くユイが突然足を止めた。
ユイは小声で話しかけてきた。
ユイの目は真剣だった。
「階段を降りた先に誰かいるようです」
リーリに緊張が走った。




