幸せと不幸せ
プーミには説得するつもりも納得させるつもりもなさそうだった。
魔法(?)を使える、そのことがプーミには当たり前のかもしれない。
だから、周りがどう捉えるか無関心なのかもしれなかった。
リーリが言葉の先を探していると、プーミは空中に巨大な輝く文字を踊るように描き出して見せた。
薄暗い館内が一気に明るくなった。
その刹那、輝く文字がパンと弾けて元の明るさに戻った。
線香花火のようだった。
「プーミは世界に散らばる物語に詳しいのですか?」
斜め前を歩くユイはプーミに尋ねた。
「少しね、ほんの少しだけ」
プーミの話にはワクワクと不安が入り混じったざらついた面白さがあった。
ユイにとってプーミの話には触れたことのない世界が広がっているのかもしれなかった。
「ユイはリーリやプーミみたいに物知りな人を凄いと思います」
「どういうことかしら?」
リーリはユイが感じた漠然とした不安をプーミに説明した。
「ふふ、ギーリク大図書館にいるとユイちゃんと同じように感じる人は多いでしょうね。でも、私の感じ方は反対かしら。私はこの本にあふれた場所にいると、世の中には私の知らない知識がこんなにも溢れているって思うわ。どの本が面白くて、どの本がつまらないのか。そんなちっぽけな事に悩まなくてすむ。一冊本を手に取り、読み終えたら次の本へ移る。そして、新しい本を求めてさらに次へ移る。それを何度繰り返しても、本棚を見上げれば尽きる事のない本が私を待っている。時計のどれだけ針が進もうが、世界に天変地異が起きようが、世界中から人がいなくなろうが、私は思うまま過ごして居られるわ。私は永遠に古びた本の匂いの中に身を置いていられる」
「幸せ、ですね」
側を歩くリーリとプーミは笑った。
「どうして笑うのですか、もぅ」
ユイは二人の笑う理由が分からないようだった。
腹が立ったのか、ユイは速足になった。
「笑ったりしてごめんね。ユイちゃんから見ると私のような人は幸せに見えるのかしら。幸せねぇ・・・不幸だとは思わないけれど、ユイちゃんが感じるような楽しい幸せかどうか考えたことないわ。私の本好きは年季が入っていて、その辺りはもうゴチャゴチャになっているから」
おばさんくさい言い方だ。
プーミの姿見は自分たちと変わらない。
「私は記憶を探している」
「記憶・・・?」
リーリとユイは顔を見合わせて言った。
「記憶喪失ってわけじゃないわよ。まぁ、記憶というのは比喩なんだけれどね、私は誰も知らない記憶を求めているのよ」
喋りすぎたと感じたのか、プーミは話題を変えようと質問した。
「私から質問してもいいかしら。リーリ君とユイちゃんは、古文書を読んでどうするつもりなの?古文書はマナ教が長い年月をかけて解読を試みている難読本の中の難読本よ。気を悪くするかもしれないけれど、リーリ君達が一読して内容を理解出来るような優しい本ではないわ」
ユイに合わせてほんの少し急ぎ足になっていたリーリはプーミの質問に歩幅を小さくした。
古文書に興味を持つ者が今の自分たちの行動を奇妙に思っても不思議はない。
機械道具を詰めたカバンを抱える自分と機械人形のユイ。
物見遊山で古文書の解読を試みる人なんていない。
プーミの疑問も当然だ。
「別に・・・今すぐどうするつもりもありません。今はマナについて詳しく知りたいだけです」
「ふーん。どうするつもりもない、かぁ」
消極的で歯切れの悪い答えにプーミが満足するはずなかった。
ユイは何か言いたそうにこちらを見ていた。




