あなたは誰ですか?
「この辺りかな」
リーリは電子マップを手に目印の場所を探した。
「いつの間に裏口なんて見つけたのですか」
「ギーリク大図書館を出る少しまえに見つけたんだよ。フロアマップに小さな入り口が描かれているのが分かってね。意味のない記号を載せたりしないから何だろうって思ったんだ。後で考えてみると、どこかで見た事あるなって気づいてたんだ。それは、設計図でよくみる非常口の扉だって」
「リーリの無駄知識も役に立つ事があるのですね」
「機械技師の能力もって言ってほしいな」
リーリもユイも笑った。
「機械技師は建物を作る専門家ではないけれど、物を作るという点では建築家と似ているからね。だから、図面に記されていることならば、大抵のことは読み取れるものなんだよ。地図のような情報を記したものを見ると、これはどういう意味の記号だろうって思わず考えてしまうんだ。職業病みたいなものかな」
「ふーん。そんな副作用のようなもので裏口の場所を知られては、フロアマップを作った人も大変ですね」
「そう言われると、返す言葉がないなぁ」
リーリは苦笑した。
リーリは話しながらも電子マップを頼りに裏口を探し続けた。けれども、周りを見る限りそれらしきものは見当たらなかった。
「うーん、この辺にあるはずなんだけどな」
「ユイにも壁しか見えませんよ」
「ユイ、この辺りの壁の構造を読み取ってくれる?」
「はい、分かりました」
リーリはユイの作業が終わるまで手持ち無沙汰になった。
夜のギーリク大図書館は巨大な塊のようだった。
エントランスの辺りには小さな明かりがポツポツと明かりが点いていた。
お昼に訪れたときも静かな場所だったけれど、夜はヒソヒソ話も遠くまで聞こえてしまいそうなほど静寂だった。
人気もない。
油断すると手先が冷えてかじかんでしまいそうになる。
リーリはポケットに手を入れて寒さを我慢した。
「リーリ。この先に迷彩カモフラージュされた壁がありました。そこから建物の中に入れそうですよ」
「ありがとう」
リーリはユイが示した場所に立つと作業を始めた。
注意深く観察すると色の不連続な壁があり、その裏側に電子仕掛けのドアが薄っすらと見えていた。
「ユイ、カバンを持ってくれる?」
「はい」
建物の外観は古めかしいけれども、使われている設備は最新のものだった。
「よかった。これならなんとか出来そう。でも、新しすぎるのも考えものだね」
「どういうことですか?」
「鉄の錠だったらお手上げだよ。鉄の錠を開ける技術なんて持っていないし、無理やり壊して入るぐらいしか方法がない。でも、最新の電子ロック錠だったら、手持ちの道具で対応出来るから」
「リーリは悪い人ですね」
ユイは笑って言った。
その瞬間、リーリは人の気配があることに気付いた。
「しっ、ユイ、静かにして」
勘違いではない。
一瞬だが近くの柱の影が揺れたのをリーリは見逃さなかった。
誰か隠れている。
警備員だろうか?
人が近づいて来た気配を全く感じなかった。
解錠に集中していたとはいえ、周りの警戒を疎かにしていたわけではない。それに、ユイがいるのだから、あっさり近づかれるとは考えにくかった。
「出て来い。影が揺れるのが見えた」
リーリは手を止め、もう一度影へ声を掛けた。
鋭い声を出してしまったせいで、場の空気の緊張を高めてしまった。
人に見られないように気を付けていたから、相手を刺激するようなことはしない方が良かった、と刹那、逡巡した。
「姿を見せるんだ」
今度は落ち着いて、相手にだけ聞こえるように声のボリュームを絞って言った。
そして、リーリは一秒、二秒と数えながら相手の反応を待った。
ジッと柱の影に視線を注いで油断しないようにする。
動きがない。
勘違いだろうか。
いやそれはない。
ユイも誰かがいることに気づいて視線をそらさないようにしていた。
「リーリ」
「ユイは道具を見ていてくれる?」
「はい」
リーリは相手が姿を現さないために自分から近づくことを決意した。




