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自己紹介は大切ですね

「待って、待ってよ。姿を見せるから」

 月の光による細い柱の陰に重ねていた姿がゆっくり見えてきた 。

 そこに現れたのは細身の女性のシルエットだった。

 ギーリク大図書館の警備員というにはキラキラした服装であったし、相手の様子は警戒するというより自分たちを観察しているようだった。

「あれ?」

 ユイも相手が月明かりを背にしているために、はっきりと姿見を確認することが出来ないようだった。

 ただ、今耳にした声色は聞き憶えのあるものだった。

 どこで聴いた声だろう。

 そう遠くない過去、つい最近のはずだ。

 リーリは咄嗟に記憶と照らし合わせた。

 しかし、リーリが思い出すよりも早くその女性は月明かりの下に姿を見せた。そして、肩に揺れるブロンドの長髪を見て、リーリは目の前に立つ女性が誰であるのか思い出した。

「あっ、今朝のウェイトレスさん・・・ですよね?」

「ごめんね、こっそりと見張るつもりなんてなかったのよ。ただ・・・」

 ブロンドのウェイトレスはそこで言葉を止めた。目の前にいる二人が今朝、店に来た客であることに気付いたようだった。

 ウェイトレスは空中にサッと指を走らせ輝く文字を浮かび上がらせた。

 今朝見た不思議なものと同じだった。

 リーリとユイは突然空中に現れた光る文字を見て驚いた。

 自分の知らない新しい技術を使ったのだろうか?

 機械技師である自分に想像出来ない何かをしたのだろうか?

「何でしょう、今のは」

「分からない」

 リーリは手品を見せられた気分に陥った。

「あなたたち、今朝のお店に来た二人よね」

「あなたこそ今朝のお店のウェイトレスですね、答えてください」

 輝く文字のせいで相手の顔が影になりはっきりと見えなかった。

 いつからいたのだろう。

 どうしてここにいるのだろう。

「ここで何をしているのですか?女性が散歩するような時間でも場所でもないでしょう」

 リーリは念のために用意して置いた護身用の棒を鞄から取り出し、隙を見せないようにした。

 自分たちの知らない全く赤の他人でないこと、幾分柔らかい言葉を使えるようになったことで、リーリは少しだけ余裕を感じた。

(自分たちがここに来ることを知る人物はいない)

(夜にギーリク大図書館に来るのは謝肉祭の最中に思いついたことだ)

(事前に計画していたことではない)

 リーリは必死に考えた。

 リーリは今行っていることが褒められることでないことを分かっていた。だからこそ、前触れなく現れたこのウェイトレスを警戒せずにいられなかった。

「あらら、質問をする前にあなたたちが何故ここにいるのかを明かすのが先ではないかしら?それが礼儀であり順序というものよ。それに、そんな物騒な物を相手に向けると、どんなお人好でも答えてくれないわよ」

 余裕のある受け答えをされリーリは面白くなかった。けれども、相手の言う事に理があるのも確かだった。

 相手の言う通りにしたほうがいいのだろうか?もし、自分たちを捕まえる為に現れたのなら砕けた態度など取るはずない。問答無用で捕らえればいいだけだ。

 柱の影に身を潜めていたのは何か理由があるのかもしれない。

「リーリ、ウェイトレスさんの言う通りですよ。棒を下ろして下さい」

 自分たちにとって相手が怪しい人であるならば、相手にとっても自分たちが胡散臭い人物と映っても不思議でない。無断でギーリク大図書館の裏口を開けようとしている自分達の行動を正当化しようとしても、無理な道理であるのは誰の目にも分かりきったことだった。

 だからと言って、だからと言って、言われる通りに振舞うのは危険すぎる

 古文書を狙うという、自分達の目的を明かすわけにはいかない。

 もし明かせばどんな不都合が起こるか分かったものでない

 リーリは、胸の内で『しかし』とか『でも』とか、正しいと分かっている相手のロジックを跳ね除けたいと、頭の中で言葉をグルグル回していた。

 そんな逡巡を見て取ったのか、ユイは自ら一歩前に出て、今、口にすべきことを言った。

「私たちは、ギーリク大図書館に保管されている古文書を読むためにここ来たのです」

「ユイっ」

 リーリは驚いて、ユイを見た。

「ユイは何も言わなくていい」

「そうはいきません。女性に武器を向けるなんてリーリらしくないじゃないですか」

「そちらの可愛らしい女の子はユイと言う名前なのね」

 ウェイトレスはリーリの様子に構わずニコリと言った。

「私はプーミと言います」

 リーリは相手の目をジッと見た。

 自分から警棒を下ろす、プーミがその事を期待しているのをリーリはその雰囲気から察した。わざわざ自分から名前を名乗ったのは警戒を解かせるためかもしれない。相手の態度は姿を見せたときから一貫している。

「リーリ」

 ユイも同じ空気を感じている。

 不思議だけれど、言葉を費やさなくても伝わることがあった。


 最悪の事態はなんだろう?

 ここで時間を取られて、古文書を探す時間を失うことだろうか?

 目の前のプーミと名乗るウェイトレスに気を許すことだろうか?

 騒ぎになり、ギーリク大図書館へ侵入するチャンスを失うことだろうか?

 想定にない事態だけれど、面倒な事にしたくなかった。


 ユイもプーミも、リーリの言葉を待っていた。


「ふぅ」


 リーリは決心すると警棒を下ろし、自分の名前を名乗った。

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