③ 心臓が…
実はメルのモデルがいたりして。
いるんですよ、私の友達でやたらと見た目だけじゃなく、中身まで可愛い子が。
メルの親戚がカトリア学園に来る途中迷い、迎えが遅れると連絡が入ってから2日。夏休みが始まって2日目である。
ヴァルは大変困っていた。
メルが出てこないのだ。
…ヴァルのベッドから。
「メルー、許してよ。僕が悪かったよ」
「………」
事の発端は、昨日である。
寮の皆に説明をした後、2人は部屋に戻った。そして、また絨毯の上に座り、ベッドに凭れた。
「メルって、ちっちゃいだけじゃなくて顔も子供っぽいよね」
「…学園では言われた事ない。」
メルは少々ぶすっとしていた。
「それは全てお化粧のお陰だと思うよ、僕は。」
「そして、小さくない!」
「はいはい可愛い可愛い。」
と、ヴァルはメルの額に口付けた。
瞬間、メルは真っ赤になり固まった。
「あらメルさん。照れているんですか。可愛いな、おい。あんまり可愛いと食べちゃうよ。」
ヴァルはいつものポーカーフェイスに声の調子も変えず、固まったままでいるメルの頬を長い指で撫でた。
やっと声を発する事が出来るようになったメルは、
「なななななにを…ヴァ、ヴァル、なななにを…」
物凄い勢いで後ずさった。
もう帰る!と、メルは女子寮に戻ってしまい、その日は終わった。
少しやり過ぎたかな、と思うヴァルなのであった。いやでも、可愛過ぎるメルが悪い。勉強は出来るはずなのにいろいろ抜けているし、そんなに純粋に育つ環境でもなかったはずなのに、皆が忘れ去ったような純粋さを保っているし。
それに加えて最近は少し大人っぽい時がある。化粧をしてないと童顔であるが、時々見せる表情など、大人っぽい。
まとめるとヴァルが思わずキスしたくなるほどに可愛いのだ。メルは。
うちの子超可愛い的なものだろうか。
いや、ほんと、うちの子が可愛過ぎて困る。
一方メルはというと、自分の部屋で悶えていた。
ヴァルが、ヴァルが、あんな事をするなんて…きゃーーー!!
と、ベッドの上でごろごろと転がっていた。
ヴァルにキスされたとわかった時、一気に顔が赤くなり、心拍数が上がった。
お、おでこにキスされたーー!
またごろごろと転がる。
小さい頃からずっと一緒にいて、こんなにも仲が良いのにたかがキスくらいで、と思うかもしれない。本当に小さい頃はキスをした事があったかもしれないが、少し大きくなると、そのような事はしなくなった。どんなに仲が良くても、友達であり、友達同士では手を繋いだり、抱きしめ合う事はあるかもしれないが、キスはしない。この国は、そういう文化である。握手が挨拶で、服装もあまり露出する事は好まれない。また、メルはぽやぽやしているが、頭が働かない訳ではない。しっかりとその辺はわきまえているのだ。ヴァルも然り。
だからこそ、メルは余計に意識してしまった。
私達は恋人同士になったのだと。
正直、ヴァルに抱きしめられるのは、とても安心するが、1年くらい前から、同時に心臓がどきどきするようになった。初めは何かの病気かと思ったが、友達の話を聞いてヴァルが好きだという事に気付いたのだ。
実は、さっきの抱っこもどきどきしていたのだ。ヴァルは細く見えてしっかりと筋肉があるなとか、いい匂いがするとか、やっぱり安心するとか、思いながら。
その日は、寮の友達が各自の家にすでに帰っていたので、1人寂しく夕食を食べて、寝た。本当は夜もヴァルの所へ行こうと思っていたのだが、恥ずかし過ぎてヴァルと顔を合わせられなかったのだ。
次の日。
メルは恥ずかしかったのだが、1人は寂し過ぎて我慢出来ず、ヴァルの元へ行った。
「お、おはよう、ヴァル」
メルは身支度も済ませて、そんなに早く来たつもりはなかった。しかし、ヴァルにとっては少し早過ぎたのか、ベッドから出て、絨毯に座った所だった。
「眠い…」
と、首がカクッとなりそのまま絨毯に倒れそうになったので、メルは慌ててヴァルの肩を支えた。
と、いきなりヴァルがメルのことを抱き締めた。
「ヴァル?ヴァル?」
メルは驚きながらもヴァルの頬を軽く叩いた。
…だめだ。完全に寝ている。最近はそんな事が無かったから忘れていたが、ヴァルの寝起きは良い方では無かった。
どきどきしている胸を宥めながらヴァルを起こそうとする。
「ヴァルー起きて、そして離して」
「…める?…」
ヴァルの寝起きでぼーっとしている顔は、いつもヴァルと一緒にいるメルでさえ、破壊力があった。他の女子が見たら鼻血を出したかもしれない。
「おはよう、」
にこっと、メルがヴァルに想いを伝えた時のあの笑顔でヴァルが笑った。もうこれは、男女関係無く、ヴァルに何されてもいい、と思わせる笑顔だ。そしてあろう事かメルの頬にキスをした。
ヴァルは、懲りていなかった。
そして話は冒頭に戻る。
さっきからメルはずっと無言を貫いている。
ヴァルのベッドの中で蹲っているメルは思う。
正直、あの笑顔は反則だ。メルが見惚れている間にヴァルがキスをした。心拍数が急上昇して死ぬかと思った。最近、ヴァルといると心臓がもたないと思う事が多い。
でも、決して嫌なわけでは無いのだ。難しいメルの乙女心だった。ずっと心臓のどきどきが止まらない。
ヴァルはまた、困っていた。メルを本気で怒らせたかと思ったのだ。これは大変だと思い、頑張ってメルに謝っている。さっきまであった眠気は吹き飛んだ。
「メルーごめん。無意識だったんだ。もうしない、とは言えないけど、しない様にするから。」
「……」
「ほら、お菓子だよー。メルが前美味しいって言ってたやつ。」
「……」
「……ごめん、そんなに嫌だった?」
「……嫌じゃないの…」
やっとメルが喋った。
「ただ恥ずかしかっただけなの!なんでヴァルはそんなに平然としてるの!?」
何故そんなに可愛い事を言うのだろうか。こっちは必死で我慢し、謝っているというのに。
ヴァルはもう、我慢が出来なかった。
「よしよしよし、可愛いなーもう。」
ベッドから少し出てきたメルを持ち上げ、絨毯の上に座った。そのままメルを動物にする様に撫でた。扱いは、小動物だった。流石に、ベッドの上はだめだと、ヴァルはちゃんと理性を働かせた。
メルは大人しくしていた。こういう時は大人しくしているに限る。ヴァルの顔を盗み見ると、
「ま、眩しい…」
ヴァルの存在が私の心臓を脅かす、と悟ったメルであった。
ひとしきり撫でられた後、メルがはっとした様に、
「そう言えば、そろそろお迎えが来るよ!速く準備して!」
「え、お迎えって、僕達死ぬの?」
「いや、そっちじゃないから。速く速く!」
やっと、メルたちの地元、セントリー村からのお迎えが到着した。ヴァルの準備も間に合ったのでよかった。
やっと帰れる。お父さんとお母さんに早く会いたいなあ。
若干ヴァルと恋人同士になった事をからかわれるのを心配してはいるが、村に帰れるのを心待ちにしているメルであった。
次回は割とヴァル視点で書こうかな、と思っています。




