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人は見た目に騙される  作者: カフィ
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② 夏休みの始まり

夏休みはまだ始まったばかり

虫がとても煩く鳴いている。

カトリア学園は夏休みであった。

普段は寮で生活している生徒達も、ほとんどが自分達の家に戻っている。


しかし、ヴェルシウスとメルシアは、

「暑いわね。」

「うん、暑いね。……その話し方やめない?」

「いやよ、やめないわ!だって私、いじめられないようにしなきゃいないのよ!」

メルはドヤ顔で言った。このちょっとアホそうな所がなんとも可愛い。と、ヴァルは常々思っている。別に話し方でいじめられたりはしないのだが、娘が可愛くて仕方がないメルの父が、メルを脅したのだった。話し方を変えないといじめられるかもしれないよ、と。

「でも、僕はいじめないよ?」

「そっか〜、ならいいや。無理して話し方変えなくて。」

と、本当に納得したように言うと、今までの話し方から、ぽわぽわとした話し方に変わった。まあ、この話し方だったらよりモテるかもしれないだけの話である。尤も、メルの父はこれを心配したのだが。


「ところで、暇ですね、ヴァルくん」」

「ええ、僕達は徒然なるままに過ごしておりますよ、メルさん」


家に帰らず寮のヴァルの部屋でだらだらと過ごしていた。2人も、夏休みには直ぐに家に帰ろうと思っていたのだが、村から迎えに来るメルの親戚が学園に来る途中迷ったらしく、予定より2日ほど遅れるらしいという手紙が来た。

当然、毎回休みの度に2人は一緒に帰る。

という事で、少しほぼ誰もいない寮で過ごさなければならなくなったのであった。



2人の関係は、この前気持ちを伝え合ったのだが、あまり変わっていない。どうでもいい様な会話をし、相変わらずヴァルがメルの面倒を見ながら過ごしている。

この前だって、

「うぇぇーん、ヴァルー」

と、ヴァルに泣きつき、

「ライムの事が好きな女子に睨まれたの、もう嫌だ。怖い。」


「よしよし。大丈夫大丈夫、ライムのことが好きみたいな雰囲気メルは出してないんでしょ?まあ、出してたら怒るけど。」


最後の一言がやたら底冷えのする声で言われてメルはヴァルの腕の中でびくっとなった。

「そんな雰囲気出す訳ないよ!あ、なんかもう怖くない気がしてきた。ありがと、ヴァル。」

ヴァルのやたら怖い一言で今までの恐怖は吹き飛んだ。ヴァルから離れようとしたが、ヴァルは離してくれなかった。

「ヴァ、ヴァルさん…?」

ヴァルはいつもの無表情は何処に行った!と、叫びたくなるくらいにっこりと笑って

「メルってライムと仲良いよね?他の女子に嫉妬されるくらいライムと喋ってるの?」

と、尋ねてきた。メルはライムと同じクラスであるが、ヴァルとは違うクラスなのである。

「あ、あのね、ライムとは今席が隣で、ライムがやたらお喋りなの。私はほとんど喋ってないよ。」

メルシアは、慌てた。ヴァル、怖すぎる、と。

「ふーん、そう。まあ、そっか。メルの事を気が強そうって言うくらいだもんね。」

「そうそう!私が色目を使ってこないのが面白いらしいよ!」

ヴァルはどうやら納得してくれたようで、解放してくれた。


などという事があった。


今はもう夏休みで授業がないので、やる事がない。

「そう言えば、リリーがヴァルのことを無表情だって言ってたよ。」

「まあ、僕は実は向こうの国の皇子で、人前では感情を出したらだめだからね。」

ヴァルの部屋は一人部屋で、東洋風に靴を脱いで入る仕組みになっている。壁伝いに机、ベッドがあり、真ん中には何もなく、絨毯が敷いてある。今の季節に合ったさらりとした生地の絨毯である。そこに2人は座り、ベッドに背を凭れているのだ。

ヴァルはメルのポニーテールにした髪を弄んでいる。


「ふーん、何処らへん?」

「遠くだよ遠く。」

「それはそれは皇子様。今までの数々の無礼、お許し下さい。」

「よい、許して使わそう。」

「で、リリーのこと覚えてる?」

メルはどうやらヴァルの適当な話に合わせるのが飽きた様で、いきなり話題を変えてきた。

「メルって、僕には割と適当だよね。まあいいけど。リリーってあの、前世が山姥って噂の子だっけ?」

「山姥って何?絶対違うと思うけど…そんな噂あるの?…他の特徴は?」

「そんな噂の子いるよ、メル知らないんだ?」

「他の特徴は?」

ヴァルが黙った。



「リリーは、よく私と一緒にいる子で、背が高くて可愛くて、髪型がストレートでおろしてる子だよ。」

「了解了解。分かった。」

とても適当に返事したヴァルであった。

「わかる気ないね。でもヴァルそんなに無表情かなぁ。割と表情変わるよねー」

「うんーまあねー」

メルの前ならよく変わる。



本当にどうでもいい話をして過ごしていた。




暫くして、

「ヴァル、トイレ行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。他の人に見つからないように気をつけるんだよ。」

「分かってるよ、大丈夫!」

男子寮に女子がいたら割と大問題である。

しかし、軽い足どりでメルは部屋を出て行った。





あれ、


この部屋じゃない?入ろうとした部屋の戸の取っ手を握った時、違う。と感じた。

どういう事だろうか、一つ曲がる角を間違えたようだ。

やばいやばい。しかもその部屋に誰かいるようだ。

メルがさっと今来た道を戻ろうと数歩歩いた時、部屋の戸が開いた。


「あれ?誰だ、お前。」

何かやたらと背の大きい人が出てきた。髪は茶色で短く刈り込み、顔は野性味がある。体格がよく、ワイルド系というやつだろうか。

と、メルは気づいた。

この人、見た事ある。一つ上の先輩だ、と。男子は格闘技の授業があり、毎年秋にかくの大会があるのだが、去年優勝した人だ。たしか、カイ・フェルメールという人だ。

ちなみに、この国は貴族は苗字があるが、平民は苗字がない。平民の場合、出身の村などを苗字の代わりに使う。



ヴァルに見つかるなと言われていたのに、見つかってしまい慌てて逃げようとしたのだが、

「どうした?あれ、お前、女か?」

と、じっと見られ、足が竦んで動けなくなった。

どうしよう。完全にばれた。

「どこの子だ?迷っちゃったのか、大丈夫、俺が連れて行ってやるよ。」

と言って、カイに頭をぐりぐりと撫でられた。


もしかして、年下扱い?この学園の生徒だって、ばれてない!?


メルは、とても複雑な心境になった。生徒じゃないって、どれだけ小さい子に見られているのか。このカトリア学園は、14歳から入れて、メルは2年生、つまり16歳だ。

いくら普段しているメイクをせず素っぴんで、制服ではなくお気に入りのワンピースを着ているからといえ、

13歳以下に見られているなんて…しかも、かなり年下に見られているかもしれない。



「誰の所に行けばいいか?」

カイが小さな子に話しかける様に聞いてくるので、メルは乗る事にした。

「えっとね、セントリーのヴェルシウスのところ。」

少し、子供っぽく話してみた。

セントリーとは、ヴァルとメルの出身の村の名前だ。

「ヴェルシウスの妹か?」

「ううん、親戚。」

「そうかそうか、小さいのによく遠い所から来たなー」

また、頭をぐりぐり撫でられた。


メルは、少し悲しくなってきた。そんなに自分が幼く見えるとは思っていなかった。

いや、これは絶対に身長の所為だ。小さい人が多い自分の家系を恨んだ。

それと、カイが背が高い所為でもあると思う。190cm近くあるカイに比べて、メルは150cmあるか無いか、いや、無い。ちなみにヴァルは、スラッと180cmはある。昔は同じくらいだったのに。


カイはメルの手を繋ぎ、歩き出した。

もう絶対にメルがこの学園の生徒だとは思っていない。

しかしメルは、念の為顔はあまり覚えられない様に俯き加減で歩いた。一番の理由は、悲しい気持ちの所為であったが。



「着いたぞ。」

と、ヴァルの部屋に着き、カイは扉を叩いた。

「おい、ヴェルシウス。お前の親戚を連れて来たぞ。」


「………親戚?」

と、中から戸惑った声が聞こえた。それはそうだろう。ヴァルの親戚は来る予定など無いのだから。

ヴァルが部屋から出て来た。そして、手を引かれ、俯いているメルを見て、固まった。

「この子、迷ってたぞ。だめだろう、こんな小さい子を1人で出歩かせては。」

「ああ、すみませんでした。フェルメール先輩。…だめだよ、1人でどこでも行ったら。注意したばっかりじゃないか。」

硬直から溶けたヴァルは、流石頭の回転が速いだけあって、直ぐに理解した様だ。

よく見ると、身体が少し震えている。メルが小さい子に間違われた事を笑うのを我慢しているのだ。

メルはむっとして、ヴァルを睨んだ。

気づいたヴァルが、

「おいで」

と、メルのことを抱き上げて、

「よしよし、怖かったねー」

まるで小さい子にする様に背中をぽんぽんと叩いた。

メルは腹いせに少しヴァルを蹴ってやった。ヴァルに対してだけは、割と強いのだ。まあ、ヴァルにはノーダメージであるが。


「すみません、ありがとうございました。ほら、お礼は?」

ヴァルはメルを抱き上げたままだ。

「…ありがとうございました。」

と、メルが少し不貞腐れながらカイの方を見て言うと、

「気にするな。もう迷うなよ、お嬢ちゃん。」

と頭を撫で、カイは去って行った。




カイが去って、部屋に入ったヴァルとメル。

「ヴァル、もう降ろしてよ。」

と、メルがヴァルの抱っこから降り、靴を脱いで絨毯の上に立った。



その瞬間、ヴァルは吹き出した。


「もうだめ、我慢出来ない。…っく、あははは、メル、小さっ、あはははは」

誰だ。ヴァルを無表情だと言った奴は。

なかなか他の人でもない様な大爆笑だ。目尻には涙が浮かんでいる。

「もう!笑いすぎ。」

「だって、先輩にここの生徒だと思われないくらいって、こんなに小さいし…」

メルの頭の上に手を置いて、また笑い始めた。腹を抱えて笑っている。

「あはは、だめだよ、メル。っく、道に迷っちゃ、…小さいんだ…から…」

自分の言った事にまたうけた様で、笑いが止まらない。

メルはむっとして、

「そんなに笑うなら、こうしてやる!!」

と、笑われた仕返しにヴァルをくすぐり始めた。

「ちょ、やめ、メル!あはははは」

メルはひたすらヴァルをくすぐった。

実はヴァルはくすぐりには昔から弱いのだ。



ヴァルは、息も絶え絶えになり、絨毯に倒れ込み、

「表情筋が…僕の表情筋が…筋肉痛になる…」

などと、ぶつぶつ言っている。

確かに、ヴァルがあんなに笑っていたことなんて、久しぶりかもしれない。

前にこんなに笑った時は、やはり、メルのやらかした事に笑ったヴァルにむっとして、メルがくすぐった時である。

メルはメルで、くすぐった事に疲れている。


そこに、

「何事だ!?」

と、ドンドンと部屋の扉を叩かれた。

どうやら寮に残っていた人々がヴァルの笑い声に驚いてここまで来た様だ。

ヴァルは普段無表情で、ほとんど感情を読めない。ヴァルが爆笑していたら、それは驚くだろう。


「メル、おいで。」


と、ヴァルは腕を広げた。

「え、もしかして、」

メルは嫌な予感がした。

「メルが忍び込んでることばれたらどうする?怒られるよ?まあ、僕は別に怒られてもいいけど。」

それを聞いて、メルは怯えた。背に腹は代えられぬ。

「やだ。抱っこして。」






その後、何があったのかと集まって来た人々に対し、無表情に対応しているヴァルと、ヴァルに抱っこされ、親戚の振りをし、顔を隠しているメルが部屋の前で見られた。


夏休みはまだ、始まったばかり。



現実では、もう、終わろうとしていますがね。

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