① え、私って無しなの?
連載にしました!こつこつと書いていこうと思います。
ここは貴族と平民が一緒に通う学校である。貴族と言ってもこの時代、お金を持っている公務員のような扱いで、身分差別などはほぼ無い。なろうと思えばなれる存在である。そんな、カトリア学園に通っているメルシアは、放課後の教室で衝撃的な事を聞いてしまった。
授業が終わり、メルシアと友人数人で掃除をして教室に入ろうとした時、ちょうど聞こえてしまったのだ。貴族であり、顔も良くある程度何でもできる、いわゆるクラスの中でも人気のある男子、ライムといつもライムと一緒にいる男子たちがクラスの女子たちについて言っているのが。
いつも制服のズボンを少し曲げて履いている男子が
「スーリアは可愛いよな、なんか小動物みたいで。」
と言うと、片耳にピアスをはめている背の高い男子が
「俺はリリーかな。何気にスタイルよくね?」
と言い、
「ライムは?誰がクラスの中で一番いいと思う?」
と聞いた。
「うーん、俺は「あ、メルシア?おまえよく話してね?」
話そうとしたところを遮られ、それを聞いてライムは鼻で笑った。
「メルシア?ないない。俺キツイ系無理。あいつ気強そうじゃない?俺的には無いね。」
メルシアたちはちょうど戸の前にいて、教室の真ん中にいるライムたちから見えない位置にいた。
「メルシア…大丈夫?」
と、右横にいたリリーが気遣わしげに聞いた。
メルシアは、「大丈夫。」とリリーに向かって微笑んだが、全く大丈夫そうでなかった。友人たちが心配そうに見るメルシアの目には涙が溜まっており、今にも溢れんばかりだった。
確かにメルシアは艶やかな金に近い茶色の髪でアーモンド形の少しつり上がった目、碧の瞳、つんと尖った顎、通った鼻筋、化粧で多少元の顔立ちが隠れているが、とても整った顔立ちである事が分かる。また、少し気が強そうに見え、さらにきつめに縛ったポニーテールのせいで目がよりつり上がって見える。
しかし、実は気が弱くかなりの天然なメルシア。村からこの学園に通うことになった時、そんなメルシアを心配して母が気が強そうに見えて、なめられないようにと、今の様な格好をさせたのだった。
どうしよう。そんな風に思われてたなんて。私ってキツイの?無しなの?もしかして、…
そこまで考えてメルシアは限界だった。
「ちょっとごめん、トイレに行ってくる。」
そう言い、踵を返し走り出した。
「メルシア!待って!」
友人が叫ぶのもお構い無しにメルシアは走った。
その声て教室の外に女子がいるのを気付いたライムたちが
「「メルシア!?」」「てことは、…やべっ」「リリー!?」
「もう!何てこと言ってるのよ!」
と、メルシアの友人たちが教室に目を怒らせて入った。
そして、ライムたちに詰め寄り、
「メルシア泣いちゃったじゃない!!」
「ライム最低。」「いや、他の2人も同罪よ。」
と、口々に責めた。
ライムは驚愕して、目を見開いた。
「え、メルシア泣いたの?いや、ありえないだろ。」
と言ったライムに女子たちはさらに詰め寄り、
「そうよ!大丈夫って言ってたけど今にも泣きそうで全然大丈夫そうじゃなかったのよ。」
そこまで言ったところで、新たに教室に人が入ってきた。
「あ!ヴェルシウスくん!」
入ってきた人物は、サラサラの少し青っぽい黒髪に鼻筋も通っており、切れ長の目、漆黒の瞳、もはや作り物のように整った顔だ。
リリーが、ぱっと顔を明るくして
「ヴェルシウスくん、メルシア見てない?」
と、尋ねた。
「メルシアは見てないよ。どうしたの?泣きそうだったってさっき言ってなかった?」
ヴェルシウスのほぼ無表情の顔に少し困惑した表情が見えた。
ヴェルシウスとメルシアは同じ村出身である。この学園は、国のなかでも一二を争う有名な学園であり、各村、貴族の中でも優秀な人材が集まる。ヴェルシウスとメルシアは村の中でも飛び抜けて優秀だったため、わざわざ遠いところからこの学園にやってきたのだ。また2人はいわゆる幼馴染というものである。お互いの事ならある程度知っている自信がある。
リリーは今あったことをヴェルシウスに説明した。
ヴェルシウスは感情を全く感じさせない無表情になり、ふうん、と呟くと
「メルシアを探してくるよ。」
とだけ言って教室を颯爽と出て行ってしまった。
ヴェルシウスがメルシアを探して廊下を少し歩き、角を曲がったとき、メルシアがトイレから出てきたのが見えた。俯いていて顔がよく見えなかったが、
「メル、大丈夫?何かあった?」
ヴェルシウスが無表情の中に少し気遣わしげな様子を見せ、聞くと、メルシアは、顔を上げ目を見開き、途端にぎくしゃくとした様子になった。
「ヴァ、ヴァル!?全然大丈夫、何もないよ!うん、何もない。」
メルシアは目を泳がせ後ずさり、いかにも何かありましたという感じだった。しかも、いつもなら学校ではみんなの様にヴェルシウスと呼ぶのだが、小さい時から呼んでいる呼び方のヴァルと呼んでしまうくらいにはいっぱいいっぱいになっているようだった。
目は少し赤くなっており、泣いたのだろうということが想像できた。しかし、いつもならこういう時はヴァルに泣きついてくるのだが、今日は何故か泣きついてこない。ヴェルシウスは不審に思った。
言えるわけがない。ヴェルシウスもライムの様にメルシアのことをキツイと思っていて、「無い」のかなんて。メルシアはヴェルシウスが好きだった。小さい頃からずっと一緒にいて、頼りになって優しいヴァルのことが好きだった。しかも、最近友達の話を聞いていてやっと気づいた恋心だったのだ。
ライムが話しているのが聞こえた時も、もしかしてヴァルも…と思いそれで泣きそうになったのだった。
ヴェルシウスは無表情でじっと見、それにメルシアは少したじろぐがそれでも口を割らないと見ると、
「まあいいや。何かあったら何でも言うんだよ。」
とだけ言ってメルシアを促し教室に戻ろうとした。それにメルシアは一瞬固まったが、ヴェルシウスが促すと、ぎこちない動きでヴェルシウスの後に続いた。
2人が教室に戻った後、男子たちから謝られ、ヴェルシウスとメルシアはいつものように一緒に寮に帰ってその日は終わった。しかし、メルシアは謝られた後もずっと挙動不審だった。特にヴェルシウスと2人の時は。
あれから3日ほどたったが、まだメルシアはヴェルシウスに会うときは挙動不審だ。今日の朝だって、「おはよう。」と寮の玄関でヴェルシウスがメルシアに挨拶をしたのだか、メルシアはおどおどとして
「お、おはようっ」
とだけ言って走って学園に行ってしまった。しかも、最後に見えた顔は涙目になっていた。
この3日間散々に避けられ続けたヴェルシウスは、我慢の限界だった。放課後。いつもは一緒に寮まで帰っているのだがこの3日間メルシアに避けられ一緒に帰っていなかった。今日も
1人で先に帰ろうとしたメルシアの腕を掴んで
「一緒に帰ろう。」
とヴェルシウスが何の感情も感じさせない様な顔で言った。メルシアは、他の人から見たら全然変わらないヴェルシウスの表情から大体の感情を読み取ることが出来る。しかし、今は全く読み取ることが出来なかった。これはなかなかメルシアの前では無いことで、ヴェルシウスに並大抵ではない恐怖を覚えた。
ガクガク震えながら了承し、2人は一緒に帰り始めた。
無言だった。いつもならヴェルシウスは意外とおしゃべりで、メルシアもよくしゃべるので2人でたわいも無い会話を楽しみながら歩くのだが、今日はひたすら無言だった。
メルシアは、何を話せば良いか分からなかった。キツイと思われては嫌だし、メルシアは見た目に反して気が弱く怖がりなのでよく嫌な事があればヴェルシウスに泣きつくのだが、その事ももしかしてうざいと思われているかもしれない…そして今日のヴァルは怖い…と、そんな事ばかりをぐるぐると考えていた。
「メル」
突然ヴェルシウスが話しかけてきた。顔は前を向いており、ヴェルシウスは背が高いため小柄なメルシアからは顔が見えなかった。
「本当にどうしたの?いつもみたいに寮にこっそり遊びに来る事もないし、僕に泣きついてくる事もない。」
「……あのねっ」
メルシアが何か話そうと口を開いたが、ヴェルシウスは遮り、話を続けた。
「ライムのことが好きなの?だからあの日泣きそうになってたの?」
そこまで聞いてメルシアは驚いた。そんな誤解をヴェルシウスがしていたなんて。ヴェルシウスに自分がライムのことを好きだなんて思われていたと思うと吃驚して、誤解を解こうとメルシアは慌てた。
「ちがうの!ライムのことは全然好きじゃないの!私が気が強そうで無いっていうのを聞いて、もしかしたらヴァルにもそう思われてたんじゃないかと思っただけなの!」
と言ってしまった。無表情だったヴェルシウスが珍しいことに、分かりやすく呆気にとられた顔をした。
「え、それは…僕にどう思われてるかが気になったってこと?」
と返せば、メルシアはしまった!という様な顔をし、それから自分が今言ったことを思い出して赤面した。
メルシアは両手で顔を隠して、
「何でもないの、うん。気にしないで。」
と独り言のように繰り返し言った。
「いや、すごく気になるよ。ねえ、顔見せてよ。メル。ていうか、何で顔隠してるの?」
もう、いつものようなほぼ無表情になり、しかしさっきまでの様な本当の無表情ではなかった。少しだけ嬉しそうな表情だと、メルシアなら分かっただろう。尤も、今メルシアは顔を隠して何も見えていないのでヴェルシウスの表情を読み取れる者はいないのだが。
恥ずかしいやら何やらでテンパっていたメルシアは、またもや口を滑らせいつもなら絶対に言わないであろう事を言ってしまった。
「だって恥ずかしいのだもの。絶対にヴァルに私がヴァルのことを好きだってばれたじゃない。恋愛の方で好きだって。…ぐすっ…絶対ヴァルに振られるもの。…うぇぇん」
しかも、泣いてしまった。綺麗な碧の瞳から溢れてくる涙を拭いながら泣いている姿は何とも庇護欲をそそられるものであった。
一方ヴェルシウスはというと、完全に固まっていた。そして徐々に目尻が赤くなり、左手で口を覆った。
「え…それ、本当?メルが僕のことを好きって…家族的な意味じゃなくて?」
ヴェルシウスが信じられないものでも見る様にメルシアを見た。
メルシアは、言った後でまたもや自分が口を滑らせた事に気づいた。そして、もうどうにでもなれと、やけくそ気味に言った。
「そうよ!私、ヴァルのことが好きなの!ヴァルは家族みたいに思ってると思うけど…」
突然、ヴェルシウスはメルシアを抱きしめた。
「嬉しい。メルはずっと家族的な好きだけだと思ってた。だから何も言えなかったのに、異性として好きでいてくれたなんて。ほんとに?」
ヴェルシウスの腕に囲まれていたメルシアは、顔を上げて、ヴェルシウスに向かって言った。
「いきなりどうしたの!?ヴァル??」
メルシアが本当に訳が分からないという様子で言うので、ヴェルシウスは可笑しくなった。
「僕もメルが好きなんだ。異性として。メルは、僕のことずっと家族として好きだと思ってたから何も言えなかったんだけど。」
それを聞いてメルシアは、とても驚いた。
「え?え?ほんとに?ヴァルも私のことが好きなの?…嬉しい。」
そして、天使の様な笑顔を見せた。それを見たヴェルシウスは、一瞬固まって顔を背けた。もう、メルシアに殺されるんじゃないかという程の破壊力だった。しかしメルシアは何を勘違いしたのか、
「ヴァル?気分を損ねたならごめん!私何かした?」
と、見当違いの事を聞いてきた。一見気が強そうでしっかりしている様に見えるが、実は気が弱くかなりの天然なのである。
「何もないよ、ただメルシアが可愛かっただけ。僕も嬉しい。」
流石、小さい頃からずっと一緒にいるだけあってメルシアの天然発言には慣れているヴェルシウス。笑顔でそう言ってメルシアをぎゅっと抱きしめた。
帰り道なのだが、ちょうど人がいない所でこの2人のやり取りを見られる事はなかった。もし、見られていたとしたら、かなりの大事になっただろう。ヴェルシウスとメルシアは学校ではあまり仲が良い所を見せていないのだ。メルシア曰く、ヴァルに頼りっきりなのを卒業したい、という事らしい。
しかも、作り物の様に美しい容貌のヴェルシウスはかなりモテるし、メルシアはメルシアでとても美人である。そんな2人が抱き合っていたなんて…と、噂になった事だろう。
「帰ろうか。」そう言ってヴェルシウスはメルシアを抱きしめていた腕から解放し、2人は歩き出した。
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それからの2人はというと、あまり変わりはなかった。まあ、学校では相変わらず別行動であるし、2人でいるときは以前から距離が近かったので、気持ちが通じ合ったと言え、あまり変わる事がなかった。強いて言うなら、2人っきりの時、
「メル、」
「え、何?」
とヴェルシウスの方を向いた瞬間、メルシアは頬にキスされた。
などという事が追加された事だろうか。
人は見た目によりませんから…




