06「逢いたい気持ち」
06「逢いたい気持ち」
最初に言われた事を無視して…まだ、その場に居た私に
『まだ、帰っていなかったのか…』と、残念そうに
プティラ王子様は大きな溜息を吐く
私は、プティラ王子様が無事に帰ってきた事への安堵と
プティラ王子様に拒絶されている様な気がして
身をビクッと震わせ、何も言えずに泣いてしまった
泣いてしまった私を気の毒に思ったのか?
タルシゲル皇子様とルスキニア王子様が、互いが互いに
『コイツの言い方が悪くて…』と、私を弁護してくれる
プティラ王子様は、もう一度溜息を吐いて
『困った御子様達だなぁ~…』と、噴き出す様に笑った。
プティラ王子様は木箱を登り、私が外にいる窓の近くまで来た
『そろそろ、この温室の窓が閉まってしまうから帰りなさい
次にこの窓が開くのはまだ、真夏じゃないから
午前の御茶の時間くらいだよ…
それくらいの時間に来たいと思ったなら、来ればいい
僕に時間があれば…だけど、相手をしてあげるから』
子供の様にしゃくり上げて泣く私に、窓の隙間から手を伸ばし
プティラ王子様は困った様な顔で
窓の近くで座り込む私の手に触れる。
『帰る時は、王様の部下に気を付けて帰るんだよ
捕まえられてしまうと危険だからね』
プティラ王子様の言葉と…
今までのタルシゲル王子様とルスキニア王子様の言葉の御蔭で
兄貴達が私に言い続けていた言葉が、私の中で木霊する
・『森の中にある見栄えの良い綺麗な城』
・『悪い王様が住んでいる』
・『獲物を捕らえる為の罠』
・『捕らえられて、奴隷の様に従わされて
一生処か死んでも、城から出して貰えなくなる』
私の中で一つの可能性が持ち上がった
『王子様達はもしかして…元は私達と一緒の旅人だった?
ねえ?プティラ王子様は捕まえられて、幽閉されているの?』
プティラ王子様は物静かに、曖昧に微笑み
私の手を窓の中に少し引き込んで
自分の唇をそっと、私の指の甲に優しく押し当てる
『今日は、もう帰りなさい!
昨日より、空が暗くなっているだろ?』
私はプティラ王子様の強い、真剣な眼差しに負け
目を閉じ俯いてから、顔を上げる
『また・・・明日ね?』
訴え掛ける様な目で言った、私の不安げな言葉に
プティラ王子様は力強く『また、明日だよ』と、言ってくれた。
私は涙を拭い…昨日、通ったルートで城を出る
今日は、プティラ王子様に帰り方を何も言われなかった
但し、城の塀を越えた先の木の上で・・・
キャノプティラと、言う…
王子様と同じ名前で、私と一番「仲の良い兄貴」と
鉢合わせしてしまった
恐怖に背筋が凍り、私は黙り込んで少し後ろに下がる
『此処に来てはイケナイって事、言わなかったっけ?
もしかしてと思って、来てみて良かった…』
最初、プティラ兄は凄く怒っている様子だったけど
私の泣き腫らした目に気付き…私の腕を乱暴に引張り、引き寄せ
私を一度、抱きしめ…背中を優しくポンポンッと叩いた後
黙ったまま私の手を引いて
何も言わずに皆のいる場所まで、私を連れ戻してくれる。
皆には『メラナは迷子になっていた』と、だけ言って
誰にも何も言わせず
その晩、私は全てをプティラ兄に預けて過ごし
床にも一緒に付いて、プティラに居の腕枕で眠りに付いた
小さい頃以来の事だったけど
腫れてしまった目を冷やして貰い、夕食を用意して貰い
寝床まで半分借りて、私はぐっすり熟睡して…
朝には気が抜け過ぎてて起きれないくらいに
昨日の緊張感が解けてしまっていた。
朝寝坊した私を姉貴達が・・・
『迷子になって幼児帰りしちゃったのね』と、笑い
他の兄貴達は・・・
『自分が育ての親だからって、メラナを甘やかし過ぎるなよ』と
プティラ兄に私の躾について一言…いや、多分…沢山
苦情を申し立てていた
私は・・・
「自分は、悪い事ばかりしている」と、言う事は自覚していたけど
どうしても、プティラ王子様に逢いたくて
今日は・・・
『私、大好きになってしまった王子様に会いに行って来る!』と
大きく宣言してから、遊びに出掛ける事にした。
私の宣言に、プティラ兄が頭を抱えながら溜息を吐き…
プティラ兄同様、私を可愛がってくれている兄貴達が・・・
『王子様とか夢見を過ぎ!酷い目に遭うから止めておけ!』とか
『お前、大丈夫か?!男に騙されてるんじゃないのか?』と、騒ぎだす
その他の兄貴達も・・・
『嘘だろ?』とか『マジでか!』とか驚いて
男性陣からは、否定的な意見が乱発される
姉貴達は・・・
『あらあらぁ~甘えん坊なまま、恋する乙女になったのね』とか
『もしかして昨晩、嫁入り決めて帰って来たの?
甘えてたのは、最後のサプライズとかだったりして?』等…
男女で別れた反応を見せてくれた
兄貴と姉貴の間で、完全な意見の相違が起き
喧嘩に発展して行っている事を良い事に
今回も混乱に乗じて、私はその場から逃げ出す…事にしたのだが
今回は、それを予測したプティラ兄に捕獲されてしまった。
私は最初、捕獲された事に驚いて動けず
プティラ兄に小脇に抱えられながら、不意に空を見上げる
そろそろ「午前の御茶の時間」くらいかもしれない
「プティラ王子様に『来たくなかったんだ』って
誤解されてしまったらどうしよう…私、そんなの嫌だ!」
私はそう思うと、居た堪れなくなって
『放して!御願だから見逃して!』と、必死に暴れて抵抗する
何も知らない姉貴が…
私が何処に行こうとしているか知らない姉貴達が・・・
『人の恋事を邪魔する奴は、馬に蹴り殺されるわよ』と
楽しげに私を解放してくれた。
『行ってはイケナイ!行かないでくれ!』
怒り叫ぶプティラ兄と同意する兄貴達を…姉貴達が押し留め
どっち派でもない兄貴達が・・・
『プティラ必死過ぎ!』と、プティラ兄を笑っている
「一番、悪いのは約束が守れない私で
プティラ兄が笑われるのは、筋違いなのに…」
私の胸が凄く痛んだけど、立ち止まる事は出来なかった
『今日こそ!日暮れまでには帰って来るから!』
私はそれだけ言い残し、行ってはイケナイ場所に直走る。
もう、既に最初に思った
「プティラ王子様に兄貴になって欲しい」なんて事は
完全に消え失せていた
まだ、大人になっていない私が今
プティラ王子様に受け入れて貰えるなんて思ってはいない
そこまで、私は自信過剰ではない
でも、女としては受け入れて貰えなくても
近付きたいと思った、少しでも(そば)傍に居たいと思った
私は、手にした接点を手放したくは無いと
今日も温室の屋根の上に舞い降りた。




