05「王子様の正体」
05「王子様の正体」
夢現にまどろむ私
ボイラーの配管のからの温もりが何時の間にか消え
初夏の木陰で感じる事の出来る、柔かい日差しの中
私は、何か優しい夢を見ていた気がする
そんな時に、行き成り誰かに腕を強く掴まれ
『起きろ!阿呆娘!』と、誰かに男の声で怒鳴られた。
私は飛び起きる・・・
自分が今、何処に居るかも思い出せなくて驚いて慌てて
怖くなって、暴れると…
再び『馬鹿!暴れんな!落ちるぞ!』と、同じ男の声
私は正気を取り戻して、私の腕を掴む手の出所を見ると
それは少し開いた窓の中から出ていた。
それはとても綺麗な手だった
『頼むから暴れないでくれ、僕は…
お前に危害を加えようなんて思ってないから…』
それに繋がる同じく綺麗な腕は、無理に隙間から伸ばされ
赤く、擦り傷として跡が残ってしまいそうな状態になっている
私は本気で動揺した
「これは、私がどうしても会いたかった…あの王子様の手だ」
動揺し過ぎて…何だか変に緊張してしまって
私は、身動ぎも出来なくなってしまった。
私のもう、暴れなさそうな雰囲気に…
プティラ王子様から
安堵の溜息が『ふぅ~』っと、大きく零れ落ちる
『あぁ~もぉ~ほんっとに僕はビックリしたぞ…
馬鹿か?それともお前は阿呆なのか?何でこんな場所で寝てんだよ』
私には、何も言い返す言葉が…言い返せる言葉が無い
私はプティラ王子様に返す言葉に困り
私の為に、王子様に怪我をさせてしまった事を私は申し訳なく思い
『ごめんなさい』とだけ、必死になって小さく絞り出した。
プティラ王子様が再び溜息を吐き、優しく囁く
『泣かないでくれ…僕はお前を虐めたい訳じゃない』
私は「泣かないでくれ」と、言われ
初めて自分の目に涙が滲んでいる事に気付いて自分でも驚く
『いや…あの…これは…私…多分泣いてるんじゃなくて
寝不足で…そう、昨日この地に辿り着いて…旅の疲れが残ってて』
言葉を重ねれば重ねる程に、嘘っぽくなってきて
頬が熱く、赤くなっていっている事を実感しながら
私は言い訳を重ねていった。
『もう、いぃ~よ…取敢えず、腕が疲れたから手を放すけど
頼むから、そこから落ちないでくれよ』
無理のある体勢で、細い窓の隙間から手を伸ばしていた
プティラ王子様は、私の腕から手を放し
手を伸ばす為に背伸びをしていた場所・・・
ボイラーの配管を管理する為に誂られたであろう
金網の通路に腰を下ろす。
私は溜っていた疲れの所為か?
寝置き過ぎて起きれないだけか?起き上がる程には力が入らず
そのまま屋根の端で寝てしまったらまた、怒られそうなので
体をずらして腕1本分以上開かない窓の隙間の横に
寄り添うように寝そべる
『だからそこは危ないんだってば…困った小娘ちゃんだな』
プティラ王子様の溜息混じりの声が聞こえてきた気がした。
次に、私の意識が戻った時
木箱を使い、開いた窓の傍まで来た王子様が
私に薄手の毛布を持って来て、私に手渡してくれる
『キャノメラナ!毛布で全身を巻いて、こっちに手を出せ』
私は言われるままに従うと
プティラ王子様が小箱の上に座り、私の手を優しく握る
「王子様が私の名前を呼んだ?今まで呼んでくれた事無いのに…
これは夢なのかな?」
私は止まり掛けた思考の中で、フワフワと浮き沈みを繰り返し
再び意識を手放した。
此処へ来てから、どの程度の時間が経過しただろうか?
誰かの冷たい手が、私の首筋に触れ軽く押さえてから
撫でる様にして離れていく
目を開けると硝子越しにプティラ王子様の顔が見えた
纏まっていく思考と、王子様と目があって動揺する私・・・
私とは対照的に、王子様は
『やっと目を覚ましたか…』と、嬉しそうに優しく微笑んでくれた。
『地味子、目を覚ましたの?もう良いだろ?王様の所に行けよ!
プティラが行かないから王様の機嫌、凄く悪くなってるよ』
視界の端にオレンジ色が見える
この声は、タルシゲル王子様だろうが・・・
「地味子って誰の事?もしかして、もしかしなくても私の事?」
ちょっとショックだった
確かに私が身に纏うのは、派手な王子様達とは違って褐色系
確かにオリーブ系の褐色は地味かもしれないけど…
地味子と呼ばれるのはちょっと心外
でも、プティラ王子様は
ずっと、そんな地味な私の傍にいてくれたらしくて
王様より私を優先してくれたみたいで…
なんかちょっと、凄く私を嬉しい気持ちにさせてくれた。
その後、直ぐにプティラ王子様は
『動ける様になったら、仲間の所に帰るんだぞ』と、言って
王様の所へ行ってしまったのだけど…
そして、その後の私は…知ってしまった「とある事情」から
眠気も覚め、元気になった後も…
プティラ王子様と入れ替わりに帰ってきた
ルスキニア王子様に・・・
『さっきのは冗談だって!
絶対にプティラは何事も無く、無事に帰って来るから…』等と
仲間の所に帰る様に促されても
私は、プティラ王子様が私を置いて行ったのと同じ場所で
プティラ王子様の帰りを待ち続ける。
『僕達は王様に「王子として大切にされてる」けど
それは、役割を果たしているからこその「地位」なんだ
だから、プティラの仕事の邪魔だけはするなよ!
僕等は役割を果たせなくなれば「剥製にされる運命」なんだ
君だって、プティラの剥製は見たくないだろ?』
タルシゲル王子様に告げられた言葉に…私は心底、驚き
『プティラ王子様の仕事って何?』と、質問する
その質問には・・・
帰って来たばかりのルスキニア王子様が答えてくれた
『プティラの仕事は、王様の為に歌い謳う事だよ
言うなれば「御機嫌取り」がプティラの仕事なんだ
お前が居た為に遅刻して、お前の所為で機嫌が直せなかったら
プティラは処分されるかもしれないな』
私は、とても不安になって
プティラ王子様が無事に帰って来るまで、その場から動けず
帰る事ができなくなってしまった。
プティラ王子様が王様の所に行った後くらいから
綺麗な歌声が、遠くから聞こえて来ている…
それが、プティラ王子様の無事を証明する唯一の証拠だったから
私は待っている間…耳を澄ませて、その歌声を聴き
プティラ王子様の無事をナキながら祈り
プティラ王子様が帰って来るまで、祈りながらナキ続けた。




