02「王子様との出会い」
02「王子様との出会い」
私は後をつけられていないか…尾行されていないか…
誰かに見られてはいないかを確認しながら
アリトアラユル方向に注意を向け…でも
鼻歌交じりにゆっくりと…確実に、城の方へ近付いて行く
近付くにつれ、城が見えて来るに従って
私の頬は次第と緩んでいく
城を囲む白い塀に…城の真っ白な柱に…クリーム色の壁に描かれた
不思議な「繊細に描かれた小さく複雑な模様」や
美しい「花や草木や青い鳥の絵」が、私の御気に入りなのだ
その中でも、一番お気に入りなのは・・・
城の敷地内に入った場所にある、城に隣接された
鳥籠の様なデザインの…とっても大きな硝子張りの温室
キラキラ光るはめ込み硝子や青い鳥を模したステンドグラス
明かり取り用の透明な硝子にも彫刻が施されてて
とっても、芸術的で…
「もっと近くで観てみたいなぁ~」なんて、思っていたりする。
私は、自分の身に纏う褐色とオリーブ系の褐色が
この森の中で、木の上で保護色になってくれている事に感謝をしながら
木に登り…高い木の中に迫り出した枝の上から、高い塀を越え
城内にある高い木に飛び移り…
今年も木の上から、塀の中の美しい硝子張りの温室を眺めていた。
『おい!お前!そんな所で何をしている!』
心臓が止まる程、大きく脈打ち
私は心臓と同時にビクリと身を震わせ、その場所で硬直する…
私は、今まで見つからなかった事からの油断を悔い
緊張しながら、無言で視線を彷徨わせる…
私の頭の中だけ高速で、思考が回転していく
向かいの城には、この場所が見える位置に窓は無い筈だ
塀は高く、細く…登れる場所は無い・・・
塀から誰かが来る事は考えられなかった
同じルートで来たとしても、同じ木に飛び移らなければ
私のいる場所は見えない筈だった・・・
木から木に飛び移る振動もなければ、そんな音も私は耳にしていない
誰かが、同じ木に登ってきた可能性も…低い
木に登れば木が揺れる為、温室を眺めるのに熱中していたとは言え
私も流石に、それに気付けない事は無いだろう…
「誰?何処から、私に話し掛けて来ている?」
私は無言で身構えて、話しかけてきた相手を探す。
暫くすると・・・・
なかなか私が見付けられない事に、相手が焦れたのか?
『こっちだ、こっち!真下だ!下を見ろよ!』
また、同じ声と…コンコンと、硬い物をノックする音がした
私は、恐る恐る視線を自分の足元の枝の下
硝子張りの温室の中へと向ける・・・
すると、青い鳥のステンドグラスの下で
同じ青い色が、私に対して手を振る様に動いているのが見えた。
私は、此処へこっそり遊びに来るようになって初めて見る
城の住人「青い影」に興味を引かれ…
兄貴達から言われていた事をすっかり忘れ、逃げる事も無く
ステンドグラスに隠れた青い影の姿が見えそうな場所を探す
相手は確か…「私に何をしているか」を質問してきたんだよね?
私は自分が相手を見るまで、相手に逃げられない為に
答えを返す事にする
『えぇ~っと…何をしてるか?だっけ?
まぁ~強いて言えば、綺麗だから御城を鑑賞しに来たんだけど…
駄目だったかな?』
私は青い影に言葉を返し思案する
硝子の上に降り立てば見えるだろうけど・・・
私が降り立てば、私の体重で割れてしまうかもしれない
もう少し、枝の先まで進めば見えそうだけど・・・
この枝が私の体重を支えられるかどうかも分からない
『駄目じゃないけど…そんな場所から覗きとは、行儀が悪いなお前…
お前、名前は?何処から来たんだ?』
この城の住人であろう青い影は、私に笑いを含んだ言葉を返し
自分の質問に答えない私に対して
『訊ねるからには』と『僕は「キャノプティラ」この城の王子だ』と
自分の名前と身分を一方的に私に告げた。
私の脳裏に兄貴達からの注意事項が過ぎる…
・『森の中にある見栄えの良い綺麗な城には
悪い王様が住んでいるから、近付いちゃイケナイ』
・『アレは、獲物を捕らえる為の罠だ!』
・『捕らえられて、奴隷の様に従わされて
一生処か死んでも、城から出して貰えなくなる』
現実に少し寒気がした、けれども・・・
「この人、私の大好きな兄貴と同じ名前なんだ…」
まだ姿も見ていない相手に対して、私は親近感が湧いてしまった
それに名前・・・
「キャノ」と付くからには
王子様は、自分達と同じ由来を持つ者の可能性がある様な気がしたのだ。
「ちょっとヤバイかな?
でも、冗談抜きで「王子様」とか…面白そう
王子って言うからには、綺麗な顔立ちしてて
やっぱり、定番的に白馬に乗ったりするのかな?」
未知なる恐怖よりも、先走る私の興味…
私は、相手が王子様である事を疑う事無く
「王子様からは悪意とか、全く感じられないんだよねぇ~…
だから、王様が悪い奴でも王子様が悪い奴だとは限らないよね?」
私は好奇心に負けて、この場に留まる事を選択していた
どうしても、私は王子様の容貌が見て見たかったのだ。
『私はメラナ!キャノメラナって名前だよ
えぇ~っと、そうだなぁ~…後は「何処から来たか?」だよね?
何て言えば分かりやすいだろ?
今の時期からは、この辺に住んでるけど
冬が近付いて寒くなったら、温かい地域に引っ越していく
旅人って所で、如何でしょう?』
私は少し迷いながら、出来るだけ正確に答えてみる
正直「何処から来た」とか…私的に本当に答えに困るのだけど…
でも、一番長く定住するのは「この周辺」で
後は…定住する場所も無く、自由気儘に暖かい地域を旅しているから
「これ以上の説明は面倒だし難しいから、コレで勘弁して!」
『如何でしょう?って…何だよそれ?訳、分かんねぇ~…』
思った通り、王子様は不機嫌そうな声を上げた。
「あぁ~やっぱそうなるよね…
それにしても、王子様ってどんな顔してるんだろう?」
私は意を決して、一番丈夫そうなステンドグラスの枠に飛び降り…
『まぁ~私は、そう言う生き物って事で宜しく』
彫刻が少なくて比較的、中が見えやすそうな硝子を覗き込んだ
言わずと知れた事だけど…私は帰りの事は考えていない
多分、今度は温室の屋根から飛び降りて
塀近くの一番高い木に登り直せば、何んとかなるだろう
そしてそんな「帰れなくなるかもしれない」と、言う
リスクを背負う価値が、そこには存在していた。