第八話 魔王の配下
「マリアベル、この度は愚息が本当にすまなかった……!」
私の前、そう言って薄くなってきた頭を下げるのはこの国の王たる人、ラズベルト陛下その人だった。
「私は怒っておりません、陛下。……ですので、どうか頭を上げて頂けませんか?」
そして、その何とも困る態度に私ができたのは、そう告げることだけだった。
しかし、私が何度頭を上げるように言っても意味は無かった。
「いや、どうか気にしないでくれ。紅蓮の魔術師たる君に恥をかかせたのだ。こうして頭を下げるだけでは意味がないのは理解している」
「そんな。私は本当に気にしていません」
そう言いながら、私は本気で困惑していた。
そもそも、恥をかくなどという話なら今更すぎる。
こんな程度で頭を下げられたら、普段の殿下を見れば陛下はどうなってしまうのか。
しかし、そんなことを言うわけにはいかず、私は何とか必死の愛想笑いを浮かべて告げる。
「私の忠誠は王家に誓っております。どうしてこんなことで揺るぐでしょうか? どうか、頭を上げて下さい」
「……本当にすまない」
私の言葉に、ようやく陛下も頭を上げる。
けれど、その顔には未だ申し訳なさそうな表情が浮かんでおり、私は内心ため息をもらす。
この状態の陛下を相手にするなら、殿下の癇癪を受けていた方が百倍は気が楽だと。
何せ、なにを言っても問題ないのだから。
私の内心を知る由もない陛下は、申し訳なさそうな表情のまま続ける。
「マリアベルには将軍のこともあるというのに、愚息はどうして……。私が必死に言い聞かせても。どうか、怒りを収めてほしい」
……なぜ、今その話をする。
必死に抑えてきた内心があふれそうになったのはそのときだった。
必死にその気持ちを抑え、私は口を開く。
「何度も言いますが、その程度で私の忠誠は揺るぎません。ご安心下さい。それより、アズリアという女性はどこに……?」
陛下の顔にあからさまな安堵が広がったのはそのときだった。
すぐさま、私が変えた話題にとびつく。
「あ、ああ。あの女ならマリアベルの言うように別室で軟禁しておる。しかし、いいのか? ……あの女を傷つけないように軟禁など」
「ありがとうございます。ええ、それで大丈夫です。──あれは、魔王の部下ですから」
「……っ!」
陛下の顔に私に向けられていたのと違う恐怖が浮かんだのはそのときだった。
それも当然だろう。
魔王とは、王国における悪夢なのだから。
「ご安心ください、陛下」
それを理解した上で、私はほほえむ。
それは愛想笑いの代わりに板に付いた、他者を安堵させるためだけのほほえみ。
「何があっても私がおります。後は全て、この紅蓮の魔術師にお任せ下さい」




