第六話 直訴 (ミラベル視点)
こちらから短編と違う内容になります!
「……ん、ここはどこだ?」
私、王太子ミラベルが目をさましたのは深夜のことだった。
いつ寝たのか考えながら、私は机の傍にある水差しの水を飲む。
「ふぅ、一息ついたな」
もう少し水を飲もうと人を呼ぼうとして。
──婚約破棄を思い出したのはその時だった。
「マリア! アズリア! いつっ!」
落とした水差しが足の甲に直撃し、しばし私は痛みに悶える。
しかし、すぐに痛みに負けるものかと立ち上がった。
頭に残っているのは、夜会での記憶に、アズリアをマリアが脅す姿。
「私はなんてところで意識を……」
そう言いながら、私は必死に身体を起こす。
「私しか、アズリアを守れる人間はいないと言うのに……!」
未だ足の甲に鈍い痛みがある。
しかし、涙目になりながらも私は部屋を飛び出した。
私が向かったのは自身の父の部屋。
……国王陛下のもとだった。
本来国王の私室には王太子である私でさえ、許可なく入ることはできない。
しかし、今はそんなことを言っている暇ではないと私は知っていた。
とにかく、マリアとの婚約を私は破棄して貰わないといけないのだから。
「……マリアとの婚約は継続できない!」
そう言いながら、私の頭に浮かぶのは意識を失う前にみたアズリアのおびえた表情だった。
かつてのマリアはあんな表情を人にさせる人間ではなかった。
むしろ、もっと気弱なタイプのはずで。
「いつからだ、あいつが変わったのは……」
そう言いながら、私は苦々しく唇をかみしめる。
実のところ、私は別にマリアベルを嫌っている訳ではない。
……ただ、変わってしまった幼なじみについていけないだけで。
「今まで私が守ってやったのに!」
そうだ。
かつて、マリアは私の後ろについてくるような少女だった。
けれど、今は違う。
まるで自分が私を、王家を守っていると言いたげな傲慢な態度で私や父に接してくる。
……肝心なことは一切、私に言わずに。
「本当は泣き虫な癖に」
人がいない廊下に、苦々しい声が口から出る。
そんな相手を婚約破棄するのは当然の話で、故に私は父が婚約破棄に反対すると思っていなかった。
「父上、お話が……父上?」
だからこそ、許可もなく父の私室を開けたとき。
……そこに呆然と座り込んだ父の姿を見て、私は呆然と立ち尽くすことになった。
私の声を聞いて、ゆっくりと父が顔をあげる。
私へと向けられたその目に浮かぶのは、隠す気のない激怒だった。
「ミラベル。──貴様、昨夜の夜会で一体なにをした?」




