第四話 魔眼
「ま、マリアベル……」
私の腕に吊るされた、殿下が何かを口にしようとする。
しかし、私が殿下を持つ腕をゆるめることはなかった。
アズリアをにらみながら、私は殿下に告げる。
「ご無礼をどうかお許し下さい」
「ふざけるな貴様! 先ほどから無礼しかしていないだろうが!」
「ありがとうございます」
話が長くなりそうなので話を打ち切った私は、アズリアをにらみつけながら告げる。
「なあ、アズリアとやら。どうして私の前に出てこれた?」
「な、なにを……」
「お前に私の実力がわからない訳がないだろう?」
そう言いながら、私はアズリアへの警戒を強める。
柔らかい容姿に、男好きしそうな態度。
……しかし、その見た目に反した異常に高い魔力をアズリアが持っていることに私は気付いていた。
「この私が直々に褒めてやる。なかなか魔力を隠すのがうまい。だが、私は特殊な目をしていてな」
そう言いながら、私は自身の目に触れる。
自分の髪と同じ、真紅の瞳を。
「──私の目は魔力の多寡を見抜く魔眼だ」
魔力が多いほど、その人物の背中に大きな炎が見えるようになる。
それが私の持っている魔眼の効果。
その魔眼が物語っていた。
目の前のアズリアは、人間にしては異常な魔力を持っていると。
「……なにを訳の分からないことを言っている?」
私の抱えられている殿下が困惑した声を上げる。
それに私は無言で殿下の身体を締め付ける。
「ぐ……! なにをするマリア、貴様……!」
「危険なので黙っていて下さい」
そう、それ以外に私に他意はない。
別に、最早私の名前とセットになっている魔眼について殿下が知らないことに腹を立てた訳じゃない。
「……っ! いいから、私を離せ! 言っておくが、アズリアに手出しすることだけは私が許さないぞ!」
そう言いながら、殿下は私をにらむ。
その言葉に、私の心に一瞬迷いができる。
このままアズリアを手に掛けたら、殿下に誤解されるのではないかと……。
ーーアズリアが何らかの魔術を使ったのは、そのときだった。
それは不可避の風の拘束の魔術。
見えないことを利用し、暗殺に向いている魔術が瞬時に編まれて放たれる。
その矛先は、殿下だった。
「貴様」
それを理解した瞬間、私は殿下を庇い、魔術に背中を向ける。
内心、戦い慣れていると判断しながら。
同時に雰囲気だけで、分かる。
アズリアが勝利を確信したように、笑ったことを。
だが、それは早計だった。
──次の瞬間、私の身体から圧倒的な熱が放出された。
「……え?」
それは時間が無かった為に、魔術とも言えないただの魔力の放出だった。
本来、魔力にきちんと編まれた魔術と張り合えるだけの力などない。
このままであれば、殿下の代わりに私が拘束されて話は終わりだっただろう。
そう、相手が私でなければ。
「嘘、なんで……」
私の魔力は一瞬でアズリアの魔術を飲み込む。
ただの魔力が入念に組まれたであろう魔術を。
次の瞬間、私の魔力が破裂し、爆発音が響く。
「っ! 何だ?」
「マリアベル様が何かしたのか……?」
とたんに夜会の中、騒ぎがおき一気に騒がしくなる。
しかし、そんな中アズリアは一切揺るぐことなく私だけを見ていた。
そう、まるで目を逸らせば全てが終わると言いたげに。
そしてそれは事実だった。
今の私の前で目をそらすのは、アズリアにとって自殺行為だろう。
ただ一つ、勘違いがあった。
「私を、このマリアベルを敵に回したな、貴様」
──目を逸らそうが逸らすまいが、そんなこと関係のない実力差が私とアズリアの間にはあった。




