第二十八話 投獄
「よく素直に投獄されたものだな、マリアベル」
淡々とした声が牢獄の中に響く。
私が顔を上げると、そこにいたのはぞっとするような目で私をにらむ国王陛下の姿があった。
国王陛下を見上げることしかできない私に、淡々と国王陛下は続ける。
「宰相とカインは喜んでいるが、私は貴様が素直に囚われたのが残念だ」
そう言いながら、私をにらむ国王陛下。
その目には、隠す気のない憎悪があった。
「──貴様を地面に這い蹲らせるために、パラディン達をつれてきたというのに」
その目を見ながら、私は思う。
どうして、私はここまでの憎悪を向けられているのだろうと。
父を殺し、冤罪を擦り付けたのも、全て国王陛下だ。
私は一切国王陛下に敵意を露わにしたこともなければ、恨みを見せたこともない。
……私は、仕える人間を間違えたのだろうか。
そんな考えが私の頭をよぎり、けれどすぐに私はその考えを振り払った。
牢屋の中、それでも私は必死に声を上げる。
「国王陛下、どうかお聞きください。神聖帝国だけには決して心を開いてはいけません。かの国は我が国を利用することしか考えていません」
「は! そんな手に乗るか。貴様、パラディンがいなくなれば私を殺すつもりの癖に」
国王陛下が狂ったように笑う。
その姿に私は理解する。
……この人にはどれだけ必死に言葉を投げかけても、届かないと。
「残念だったな、マリアベル。もう少しで貴様は私への復讐を達成できたというのに」
そう吐き捨てて去っていく国王陛下の背に、私はもう何の言葉を投げかけることもできなかった。
「……どうすればいい」
一人になった独房の中、私の声が反射する。
しかし、その言葉に答える言葉はなかった。
独房に閉じこめられてはや数日。
国王陛下は私を何度も訪ねて来ていた。
まるで、私の化けの皮がはがれるのを楽しみにしているように。
そんな国王陛下に私は必死に訴えた。
私を罰するのはかまわない。
ただ、その為に神聖帝国を入れるのはやめてほしい、と。
そして、どれだけ王国の為に私が言葉を尽くしても、その言葉が国王陛下に伝わることはなかった。
このままでは、間違いなく王国に神聖帝国が侵略してくる。
結果待っているのは、王国の人間が魔王との戦いの捨て石にされる地獄絵図だ。
その現実に私は歯を食いしばる。
「どうすれば……」
「マリアベル様!」
私の声に反応する言葉があったのは、その時だった。
聞き覚えのある声にとっさに顔を上げると、そこにいたのは王国の衛兵の制服に身を包んだ腹心。
……キャロリアの姿だった。
「マリアベル様、お労しい……! どうして、マリアベル様のような英雄がこんな場所に!」
キャロリアが涙を流しながら、私のそばに寄ってくる。
「本来マリアベル様は貴族牢でもふさわしくない功績があるのに」
「何。戦場よりましだ。まあ、身体が鈍るのは勘弁だがな」
そう言いながら、私は笑う。
それは心からの本心で、けれどキャロリアの顔に笑顔が浮かぶことはなかった。
その身体はぼろぼろで、私は聴くまでもなくキャロリアがどれだけ必死にここまできたのか、理解できた。
当たり前だ。
あの猜疑心の塊である国王陛下が私の側近が牢に来ることを認める訳がない。
おそらく、あのサイフォンもキャロリアに手を貸しているのだろう。
そうでなければ、キャロリアがここにくることなんてできなくて。
同時に、私はこうしてキャロリアと話せる時間がどれだけ貴重か理解できていた。
「何が起きた?」
故に端的に告げた私に、キャロリアの顔に浮かぶのは苦悩の表情だった。
しかし、覚悟を決めた表情でキャロリアが口を開く。
「……マリアベル様の処刑が発表されました」
その言葉に私は思わず眉をひそめる。
私の想像できうる限り、最悪の展開になったことを理解して。
その私の想像を裏付けるように、その場でキャロリアが膝をついた。
「我ら、公爵家は王家の横暴を許しません。マリアベル様。──公爵家では反乱の準備は完了しております」




