第二十七話 陰謀(聖騎士長視点)
「マリアベルは投獄されたか」
通信の声が私室の中、響く。
──はい、マリアベルは抵抗することなく投獄され、それから反抗する様子はありません。
「そうか。引き続き確認を頼む、ライマーク」
──はっ! お任せください、ヘンリック聖騎士長。
その言葉を最後に、魔術によって行われていた通信が切れる。
それを確認して、小さく私は笑った。
「あの紅蓮の魔術師を封じ込めたか」
そう言いながらも、私は理解している。
魔封じの監獄に入れたとしても、その全身を拘束することに成功したとしても、あのマリアベルを完全に押さえ込んだと言えないことも。
ライマークからの報告はない。
だが、王国では今、紅蓮の魔術師の反乱の容疑を晴らそうとする民衆で溢れているだろう。
当たり前だ。
紅蓮の魔術師は決して大国とは言えない王国の唯一の英雄だ。
その存在を確かな理由なく捕らえて、反発が起きない訳がないのだ。
──だが、もう紅蓮の魔術師は動かない。
「馬鹿が」
遙か遠く。
宿敵を封じ込めたと思いこみ、高笑いしているだろう国王へと私は吐き捨てる。
「自ら、最強の盾を捨ててくれて助かるよ」
その言葉は遠く届かない。
くつくつと笑いながら、私は通信魔術具を再度起動する。
「私だ。ライマークの騎士団をすぐに動かせるようにしておけ」
そう言いながら、私は自分の手にある宝石を揺らす。
必死にぬけだそうとするように揺らめくその魔石を見ながら、私は続ける。
「ライマークとマイヤーは王国の近くに待機させる。マリアベルさえいなくなれば、王国最強の公爵家の軍は言うことを聞くまい」
そう言いながら、私は思い出す。
マリアベルの直轄の部下にして、王国で唯一精強と言われるその軍隊を。
「そうなれば、王国軍はすぐに他国に攻め込まれる。公爵家が反乱を起こすこともあり得るな。そうなれば、王国に勝ち目はない。その際、ライマークとマイヤーには王国を助ける名目で戦争に参加させる」
そうすれば、もう王国は神聖帝国の軍を、王国内に入れるのを拒否できない。
その時、あの国王陛下は一体どんな表情をするだろうか。
「ああ、法王陛下にはこのことを伝えてくれ」
そういって通信の魔術具を切る。
私の目が向けられているのは王国の方向。
唯一状況を変えられる存在にして、正確に神聖帝国の狙いを知るはずの紅蓮の魔術師へと問いかける。
「なあ、どうするつもりだ英雄様」
言いながら私は知っていた。
あの女は最強にして、反則としか言えない強さを持っている。
……ただ、どうしようもなく軍人でしかないのだと。
マリアベルは国王よりも大きな力を持っても変わらない。
上の命令を無視することはできない。
「それを知っていたから私はミラベルを、王国を唆し続けてきたのだからな」
そう言って、私は笑う。
「さて、王国はどう転ぶかな?」
そうつぶやいた私の声に反応する人間はいなかった。




