第二十一話 冤罪
やられた、そうサイフォンの顔が歪むのが私にはやけにゆっくりと確認できた。
同時に私もまた、理解できていた。
これがサイフォンの言っていた国王陛下が私と殿下の婚約破棄を認めた理由。
──私にこの罪を着せるために、国王陛下は婚約破棄をしたのだと。
「……馬鹿な」
その声を発したのは普段は冷静そのものなサイフォンだった。
隠しきれない苦々しさを浮かべ、サイフォンは吐き捨てる。
「何故、それが悪手だと理解できない……!」
次の瞬間、私の前にキャロリアが立つ。
「マリア様、ここは私が! どうかお逃げください!」
想定外のキャロリアの行動に、私はとっさに叫ぼうと口を開く。
勝手は許さない、と。
しかし、そのキャロリアの前にさらに立つ人影があった。
「それが最適解、ですね」
「……サイフォン」
「マリアベル嬢、どうかお逃げください。後は私共でどうにかしておきます」
そう告げるサイフォンの顔に浮かぶのはいつにない真剣そのものな表情だった。
「分かっているでしょう、貴方も。今、王国は他国に介入されている。……紅蓮の魔法使いを王国から追い出し、得をするのは他国だけです」
そのサイフォンの言葉を聞きながら、私にはある国の名前が浮かんでいた。
現状、私を追放し、パワーバランスを崩すことで得をするのはその国だと。
「貴方はここで捕らえられるべきではない!」
「……いいえ、大人しくついて来てください」
「ガルフォン衛兵長、貴方は自身に下された命令に疑問を抱いていないのですか!」
その言葉に衛兵長も一瞬、ひるむ。
しかし、その顔に苦渋を浮かべながらも、それでも衛兵長は告げる。
「確かに、マリアベル様こそ私の恩人……。しかし、私が恩を返すべき相手は取り立ててくださった国王陛下もなのです」
「それがまちがった命令だと知りながらも、ですか?」
衛兵長の前にキャロリアが立ちふさがる。
「そんな覚悟の人間に、我が主を捕らえさせる訳にはいきません」
「どいつもこいつも対話を知らない考えなしが……! マリアベル嬢、これ以上ややこしくなる前にお逃げください!」
サイフォンが睨みつけるような眼差しを私に向ける。
「──他でもない、王国の為に」
そう。
私も理解していた。
ここで逃げることこそが、王国の裏にいる国には痛手であると。
この国のことを、いや、ミラベル殿下の為にはこの場から……。
──婚約破棄しよう、マリアベル。
……しかし、殿下はそれを望んでいないことを私は知ってしまっていた。
「全員、剣をおけ」
「マリア、様?」
もし、今からするべきことがミラベル殿下の益になるのならば。
私は命を懸けてもそれを達成するだろう。
「いえ、おけません! マリアベル様を連れて行くまで私は……」
「だからおけと言っているだろう、ガルフォン」
──だから、その行動が殿下を傷つけていたと知った今、私の中にその熱はなかった。
「私を連れていけ、ガルフォン」
「マリア様!」
「キャロリア、命令だ。剣をおけ」
そして、それを失って私の中に最後に残ったのは軍人としての矜持。
「すまないな、サイフォン。命令に従うのが軍人だ」
「……マリアベル嬢、貴方達親子はどうして」
サイフォンの言葉に私も笑う。
……血は争えない、そう自分でも思ってしまって。
「キャロリアもすまない。後のことは頼む」
「マリア様?」
嘘だ、そう言ってくれ。
そうすがる様な視線を向けてくるキャロリアから目をそらし、私はガルフォンに視線を向ける。
「さあ、私を連れていくといい。ただ一つ、私の部下、サイフォンには手を出すな」
「……私の命に代えても、その命を守ります」
私の言葉に苦渋の表情をしたガルフォンがうなずく。
その様子には私も思わずにはいられない。
……本当に悪いところに巻き込んでしまったと。
「マリア様、お待ちくださいマリア様!」
私に手を出すな、そう命じられたキャロリアがせめてもの抵抗と言うように声をあげる。
その声から顔を背け、私はガルフォンに案内されるまま歩き出す。
……その背後で、扉が閉まる音がした。




