第十六話 奇特な王子
軍人になる。
そう決めてからの日々は決して簡単ではなかった。
むしろ、地獄だったと言うべきだろう。
誰もが私を受け入れず、憎み、疎んでいた。
当然だ。
私は裏切り者の娘で、女なのに軍人になろうとする異端児だったのだから。
普通であれば、私の願いは叶えられることなく、潰えていただろう。
しかし、そうはならなかった。
なぜなら、私には圧倒的な才能があったから。
なぜなら、私には腐っても侯爵家の人間だったから。
──なぜなら、私にはもう命を懸ける理由が見つかってしまっていたから。
そのどれか一つが欠けても私はのたれ死んでいただろう。
けれど、私には全てがあった。
結果、私は全ての障害を力尽くでこじ開け、どんどんと頭角を現していった。
そしていつからだっただろうか。
もう正確には覚えていない。
しかし、私が力と名声を手にして行くにつれ、周囲の反応はどんどんと
変わっていった。
──あれは本意ではなかった。
国王が父のことを謝った日、それを私は今でもはっきりと覚えている。
その目に浮かぶ恐怖まで。
そしてそんな私の評判が変わっていっている中、それでも殿下だけは対応を変えることはなかった。
すり寄ってくることも、私への対応が変わることもなかった。
私が唯一、手柄を主張してほしい人だったのに。
「……まさか噂。そう思いこんでいたなど、考えもしなかったが」
そう言っていた殿下を思いだし、私は思わず苦笑する。
本当にあの人は読めない、と。
確かに、殿下の心はあの時から変わったのだろう。
それは私の中でも、寂しくはある。
けれど、殿下ならどんな時でも真っ直ぐにぶつかってくれると私は知っていた。
だから私は決めていた。
「たとえ飾りの王妃になろうと」
殿下に振り向かれることが金輪際なかったとしても。
それでも私は、全てをかけて殿下を支えると。
そうまでもしても、私の恩は返すことができないのだから。
それにあの奇特な王子には、そういう関係の人間がいていいだろうから。
──殿下はどうして精霊に嫌われるの?
──無礼だぞ、マリアベル! ……ええい、すぐになつくに決まっておる!
無礼といいながら、一切罰さない奇特な王族は殿下だけだったのだから。
「ふふ」
そろそろマリアを安心させないと。
そう考えながら、私は自室へと足を向ける。
「その為にも、婚約破棄だけは避けねばな」
それさえ避ければ、私が殿下を守ることに誰にも口を挟ませはしないのだから。
そう、国王陛下相手でさえ。
そう考えながら歩く私の足取りはひどく軽かった。




