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【連載版】婚約破棄されたのは最強の悪役令嬢でした  作者: 影茸


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第十二話 捨て台詞

 ああ、本当にやりにくい。

 気付けば私は自身の唇を噛みしめていた。


 ……これこそが、私が魔王の相手をやりにくいと感じる一番の理由だった。


 かつて私の父は独断専行で魔王の帝国に攻め行ったとされている。

 そう、魔王にとっては恨んで当然の存在なのだ。


 見方によっては、魔王は父の仇なのだろう。

 けれど、魔王はこうして屈託のない笑顔をして父をほめる。

 それが私にとってはどうしようもなくやりにくくて。


「いいから、頷けマリアベル。俺ほどお前を評価している存在はいない」


 そんな私にさらに魔王は畳みかけてくる。

 ……ああ、本当に卑怯だ。


 黙りながら、私は思う。

 本当に嫌なところで攻めてくる、と。

 この魔王は戦場でも、対面でも変わらない。

 人の揺らぎを攻めるのがうますぎる。


 そもそも、魔王に勧誘されるのを名誉に感じている自分に私は気付いていた。

 かつて神聖帝国が覇権を握っていた時代から、元弱小国たる公国を乗っ取り一大帝国を作り上げた覇王。

 それが目の前の存在だ。

 ……そんな存在に誘われて名誉に感じない訳がない。


「誘惑するなよ、魔王。私の心の置き場所は決まっている」


 ──俺がお前を守ってやる。


 ただ、もう私は決めているのだ。

 忠誠の置き場所を。

 だから、波打つ心臓も誘惑も全て断ち切り私は魔王を睨みつける。


「私は王国の守護者だ」


「そう、か」


 ……魔王が悲しげに笑ったのはそのときだった。

 そんな魔王の表情を見たのは初めてで、私は思わず息をのむ。


「お前等親子は本当によく似ているな」


「何を言っている」


「だが覚えておけ、俺は諦めが悪いぞ」


 そういって笑う魔王の顔に浮かぶのは、いつも通りの獰猛な笑顔だった。


「次会うときにはお前に、泣いて帝国に入りたいと懇願させてやる」


「ほざけ。貴様こそ、次は泣いて命乞いさせてやる」


「相変わらず生意気な女だ。まあ、今回は大人しく引いてやる。部下を回収しないとだしな」


 そういって、魔王が自身の指を鳴らす。

 牢の壁、そこにでかでかと魔法陣が刻み込まれたのはそのときだった。


「転移陣か……」


 それを見ながら、私は舌打ちしそうになる。

 どうして魔族が人間にはまだ不完全にしか発明できていない転移陣の開発に成功しているのかと。


「お前が帝国に来たら教えてやるぞ」


「いらん帰れ」


「つれねえな!」


 呵々と笑った後、魔王は後ろに守っていたアズリアに首で中に入るように示す。

 魔王の会話を邪魔しないように黙っていたアズリアはその指示に従って転移陣の中に入り。


 ……転移される直前、私を睨みつけた。


 私の方が圧倒的に強い。

 そのことを見せつけたアズリアにそんなことをされると思っていなかった私は思わず目をみはる。

 そのときには既にアズリアの姿はなかった。

 後に残ったのは、魔力が尽きたのか崩れかかった魔王の分身だけ。

 崩れる最後の瞬間、魔王はにやりと笑った。


「マリア、俺はいつでもお前を歓迎するぞ」


 それが分身の最後の言葉だった。

 それを残して魔王は完全に消え去る。


「もう来るな」


 最後に告げた私の言葉を聞くこともなく、消え去った魔王。

 それに私は深々とため息をはく。


「陛下になんて説明するか……」


 勧誘に心の動いていた自分を押しつぶすように。

明日から一日一話投稿になります。

もし、続きが気になると思って下さったら、評価、感想、リアクションなどハゲになっております!

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