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星々の紡ぐ歌  作者: めたらぁ
第1章 闇を照らす光
8/9

宴、メイド、そして酒乱!?

「にしても広い屋敷ですねえ、ここ。」


ポラリスと共に彼女の自室を出てダイニングへ向かう道中、クルックスは感嘆していた。クルックスはファイトマネーこそ潤沢ではあったが目立たず騒がずの質素な生活を好み、住んでいるアパートはオンボロである。

それゆえに長く続く廊下や部屋の数に圧倒されていた。


「そう?まあ確かにアル爺と私とメイド3人が住むには大きすぎるわね。」


住み慣れているからかあまり疑問にも思わなかったポラリス嬢。だが確かに5人が住むにはあまりに大きいのは同館なようだ。そんな屋敷であるというのに盲目である彼女が迷いなく歩けているのがクルックスには不思議だった。


「そういえば聞き忘れてたんですけど、目が見えないのになぜそんなスムーズに歩けるんです?」


「ほんと今更ね。私の耳は特別製でね、大体の物や人の位置はわかるのよ、ついでに鼻も結構利いたり。」


「なるほど、それはすごい。歌の上手さの根源にも一役買ってそうですね。」


「まさにその通り!不調でもない限りは音は外さないわ!」


自信満々に胸を張るポラリス、身長に見合わぬ大きな胸がより強調されて思わずクルックスは目を背ける。


「ゴホン!ところで次はどんな歌を歌われるのですか?」


「何を歌うかはもう決めてあるけど、あなたに言ってもわかるのかしらぁ?」


痛いところをつくポラリス。彼は音楽をろくに聴いてこなかった男だ、というより触れる機会にも恵まれなかったというか。

クルックスは「ぐっ」と言葉の刃が刺さる感触を感じていた。


「いやいや!曲名や歌手がわからなくともどんな歌かくらいは…。」


「あははっ!ごめんなさいね意地悪言って、とても綺麗な曲調で、前向きな歌詞の歌よ。聞く話によるとアニメの主題歌にもなったとかね。」


「それは楽しみですねえ、にしてもアニメの曲か…タダカズなら詳しそうだ。東の国はアニメが豊富って聞いたし。」


アニメというワードで先のポラリス救出で負傷したタダカズの名を思い出すクルックス。

そういえば彼の所持している迷彩柄のバックパックには何かのキャラクターであろうぬいぐるみが大量についていた。あとで見聞を広めるという名目で聞いてみようとクルックスは思った。


「彼はいわゆるオタクってやつなの?」


「…多分。なんかのキャラクターのぬいぐるみを大量に持ってましたね。ついで言うと貴女のイラストがプリントされたTシャツも着てますよ。」


「え゛。あれ着る人いるんだ…。」


歌姫殿の顔が引きつる、どうやらそのシャツとやらに覚えがあるようだ。

クルックスが「心当たりが?」と聞くとポラリスは黙って頷いた。


「前に出た私のCDを購入して抽選で10名に当たるってやつだと思う、何年前だっけなぁ。あぁぁ恥ずかしいぃぃ!」


「ははは!心底大事にしてるみたいで己のケガよりTシャツが無事かを心配してるくらいでしたよ。」


愉快そうにクルックスが短く笑う。ポラリスは笑うなと言わんばかりにクルックスの腕をパンパン平手で叩く。


「ハイこの話おしまい!も~やだ!イラストなだけまだマシと思うわ。写真だったら高い塔から紐なしバンジーしたくなるとこよ!」


「まあ確かに、俺も自分の姿がプリントされたシャツなんか出たら恥ずかしいかも。まあこんな嫌われ者のシャツ着る人なんかいないでしょうがね。」


自嘲気味に言うクルックスを少し悲しげな眼で見るポラリス。

自分も心を閉ざしてからは多くのファンが離れていった経験があるため気持ちは痛いほどわかるのだ。


「ここにいる人間は誰もあなたを嫌いだなんて思ってないわよ。自分をしっかり見てくれる人のことだけ考えればいいの!」


先ほどまで腕を叩いていた手は今度はクルックスの手に向かう。いわゆる手をつなぐ形になる。クルックスの手は拳を握り閉じていたがゆっくりと開き彼女の手を握り返す。


「手でっか!握りつぶさないでね。」


「そんなことしたらタダカズに撃たれるからしませんよ。」


長い廊下を抜け、大きなテーブルと食卓を囲う人影が見えてきた。

かわいらしいメイドたちの話声が聞こえたかと思えば…タダカズの上品とは言い難い笑い声が耳を劈く。


「あんの馬鹿、飲んでるのか?やれやれ。」


「ふふっ、私たちも早く食べましょ?あなたもお腹すいてるんじゃなくて?」


「…久々に全力で走りましたからねぇ、正直ペコペコです。」


大量のご馳走と、上等そうに見える酒、タダカズを囲うメイド3人。

それをニコニコと眺めるアルデバラン、なかなかに異様な光景だ。


「だぁ~っひゃひゃひゃ!!そんでぇ!俺がぁ!ビチグソ悪党どもをBANG!BANG!してやってぇ!!ポーラちゃんの危機を救ったってわけよぉ!!」


このアホ出来上がっている。だが事実ではある、彼がいなかったら少々危うかったかもしれない。ゆえにクルックスは下品な物言いを強く言おうとは思わなかった。


「タダカズ様かっこいい!」 「…やるじゃん。」 「凄いのねぇ~。」


三者三様の反応でメイドたちがへべれけタダカズを褒めたたえる。

そんな彼がポラリスたちに気づき「あ~!!」と叫び席を立つ。


「主役が来ましたよぉメイドちゃんたちぃ!!みんな大好きポーラちゃんとオマケの変態格闘家クル男!!」


「せいっ。」


調子に乗りすぎたタダカズの頭部をチョップする。短い悲鳴とともに「サーセン」と謝るタダカズ。それを見てメイドさんたちは苦笑いしている。


「恐ろしく速いチョップ…俺、というか誰も見えねえなあ!!あひゃひゃひゃひゃ!!」


いつもこうである、酒が入ると笑い上戸。それはいいのだが少々行き過ぎなところがあるのでクルックスは毎度苦労している。


「だめだコイツ。」


「ふふっ、まあいいじゃないクルさん。タダカズさんも頑張ってくれたんだし今日くらいは、ね?」


その一言、その笑い声を聞きクルックス以外の者が一斉に黙る。さながら音楽で言うところのブレイクのように。その静寂を最初に破ったのはタダカズだった。


「今コイツをクルさんって…というか、え?え?ポーラちゃん笑った!?」


「お嬢様…!」 「…可愛い。」 「あらあらぁ~。」


「ポラリス様…!ようやく笑顔を見られる日が…。」


タダカズの反応が呼び水となり、静寂は歓声に変わる。

タダカズを囲っていたメイドたちとアルデバランはポラリスの元へ、タダカズはクルックスへ詰め寄る。


「えと、心配かけてごめんねみんな。多分もう大丈夫だと思う。」


自慢の緑髪を人差し指でいじりながら照れくさそうに言うポラリス。

アルデバランは目元をハンカチで拭っているようだ。無理もない、目のハイライトが消え、無気力になっていた主が元気になったのだ。

メイドたちは感極まって3人で抱き合っている。なかなかに眼福…とはタダカズの言。


「ん~眼福。じゃなくて!!おいクル男!!どんな魔法を使いやがった!!ポーラちゃんが明るくなっただけじゃなくて愛称で呼ばれてたよなあ!?おまっ・・・おまえぇぇぇ…ポーラちゃんの部屋で2人で何かしたのかぁ?」


嫉妬と羨望の眼差しでクルックスの胸倉を掴むタダカズ。だがケガした腕を動かしたせいで一瞬顔が苦痛に歪む。クルックスは溜息をつき落ち着いて話し出す。


「少しお話しただけさ、俺の過去とかな。」


胸倉を掴んでいた手をパッと離し目を丸くするタダカズ。

一変して安心した顔をすると肩をポンと叩いた。


「俺以外には頑なに話さなかったってのにあの子には話す気になれたんだな、よかったよかった。」


「間近で彼女の歌を聴いて長いこと忘れていた安らぎを思い出したんだよ。ポーラ様はそんなことでと思うだろうが、俺には大いに価値のある瞬間だったんだよ。」


「彼女だけでなくお前まで救っちまうとは、アルデバランさんには感謝だな!つかお前ポーラちゃんのこと愛称で呼んでた?」


「…そうしてほしいと頼まれたから仕方なくな、様もいらないと言われたが雇い主だからそうはいかんだろ。」


クルックスは顔を背け少し赤くなる。タダカズはお堅い奴めと少々呆れて溜息をつくも、にっこり笑ってそうかそうかとクルックスの肩を撫でる。


一方ポラリスサイドは…。


「お嬢様復活記念にとびっきりのデザートを作ろう!」


一際元気そうなメイドが言う。


「…賛成。」


物静かなメイドが呟く。


「腕によりをかけるわよぉ~。」


間延びした口調のメイドが二人の肩に手を置く。


「やったあ!楽しみにしてるね~!」


ポラリスが大いに喜ぶその様子に再度アルデバランも安堵する。


「ささ、お二方!たくさんお召し上がりになってください。料理の方もこの通り出来上がっておりますので。」


ちょうどよく空いている席にクルックスとポラリスが座る。

タダカズも向かいに座り、まだ飲むようで、東の国の酒に舌鼓をうっている。

クルックスは好物である肉に食指を伸ばす。たくさん動いた後だからたんぱく質が欲しいのだろう。


「こんな美味いローストビーフは初めてだ…いつかのソロキャン(という名のサバイバル)で食べたときも良かったけど比べ物にならない美味だ…。」


「お褒めに与り光栄です。少し奮発して良い牛肉を使ったのがよかったようですね。」


謙遜のようにアルデバランは言うが良い肉だけではこうはならないだろうとクルックスは心の中でつぶやいた。


「な~に謙遜してんのアル爺!あなたの料理が不味かったことなんてただの一度もなかったわよ~!」


いい焼き色のパンを手にしながらポラリスが言う。

クルックスがここに来る前は食も細くなっていただろう彼女、だが今はモリモリと食べている、なんともいい光景である。


「恐縮ですお嬢様。ですがあの子たちの力もあってこそです、お忘れなきよう。」


すっと手を差し向けた方にいるのはキッチン…というか厨房でせわしなく動く3人のメイドだった。


「ああ、クルックス様。紹介が遅れましたね。」


思い出したかのようにアルデバランが言うと一人一人メイドたちの紹介を始めた。


「あの元気な子がケラ、あっちの大人しい子がエーレ、そっちのおっとりした子がマイアです。3人とも自慢のメイドですよ!」


確かにそのようだ、一つ一つの所作に無駄がない。3人とも息ぴったりで淀みなく動いている。クルックスらしい表現をするなれば、さながら力強くも美しい空手の型を見ているようだ。


「3人はどういった経緯でメイドに?」


そうクルックスに聞かれたアルデバランは彼女らを紹介するときとはうって変わり、真面目な顔になった。


「彼女たちは…皆捨て子でした。」


アルデバランがそう言うとクルックスはピタリとフォークの動きを止め、そっと皿の端に置いた。


「よろしければ、詳しくお聞かせ願えますか?」


「ええ、お話ししましょう。ただし、彼女らには話したことは内緒という条件で。」


クルックスは頷き姿勢よく座る。ポラリスはちらりとアルデバランの方を見た後少し微笑んだ。


「今から約10年ほど前でしたか…最初の子、ケラを拾ったのは。こう見えて私は色々な活動をしておりましてね、言うなれば何でも屋さんです。」


ほうほうとクルックスが頷く。


「その中の仕事の一つに廃屋の片づけというのがありましてね、がれきやゴミの山にまみれて泣いているあの子がいたのですよ。両親はと尋ねると『パパはいない、ママが迎えにくるから待っててと言った。』と…。」


残酷な嘘をつき、子を捨てる親。クルックスの過去にも近しいものを感じ苦い顔をする。


「その言葉をあの子は信じてずっと待っていたようで、私が連れ出そうとしても泣いて拒絶されました。ですが空腹が限界を迎えたようでほどなくして気を失ってしまったのです。そこを私が拾い屋敷へ連れて行きました。」


「さすがに私がやるわけにはいかないので、ポラリス様の母君アルカ様にお風呂へ入れてもらい、私は簡単なスープと…ははは、ちょうど今ポラリス様が頬張ってるパンをお作りして食べさせました。」


小動物のように頬を膨らませパンを食べてるポラリスにクルックスとアルデバラン…ついでにタダカズも吹き出しそうになったが我慢した。


「私は彼女の両親について調べました。その母親というのが問題だらけの人物で、街でもよく噂されていた札付きの悪い男と交際しており、邪魔だからと子を騙し、捨てて国外へ逃亡したようです。」


アルデバランの顔はいたって穏やかに見えるが少し暗くなった気がした。クルックスはその変化を見逃さなかった、こんな穏やかで優しい人にこんな顔をさせる輩を許せないと心から思った。


「私は迷いましたがケラに真実を告げ、母親は戻らないことを打ち明けました。案の定泣かれました。今もこの選択は間違っていたのでは?と考えることもあります。『もう辛い思いはさせないからここで暮らしなさい。私を父親と思っていい。』そう告げ抱きしめると彼女は小さな腕を目いっぱい伸ばして抱き返してくれました。」


タダカズは笑い上戸から一変、泣き上戸と化している。

クルックスは厨房で張り切るその子を見つめる。すると目が合って会釈されたのでクルックスは手を振って返す。


「それから私は、例え屋敷を離れても生きていけるように教育を施しました。家事、掃除、洗濯、文字の読み書きに礼儀作法…。不器用ではありましたが、あの子はとてもひたむきで、弱音を決して吐きませんでしたよ。」


優しく厨房のほうを見るアルデバラン。その様はまさしく理想とする父親であった。クルックスにはそれがとてもまぶしく見えた。


「この屋敷に迎え入れる流れはケラ以外の2人も一緒でしたね。エーレは両親による暴行から、マイアは同じく両親に違法な風俗へ売られるところを救いました。この2人の話はさすがに食事中にはお話しできません。筆舌に尽くしがたい惨状でしたから。」


「承知しました。」とクルックスは返す。

さっきまで泣いていたタダカズは義憤に駆られて怒ってるようだ。だが当のメイドたちにはばれないように静かに。酒に酔ってても、こういう配慮ができるところがあるからクルックスはタダカズを嫌いにはなれない。


「彼女たちには自由に生きてほしいと思いましたが私やアルカ様に報いたいと申し出てここでメイドをする選択をしてくれました…他の2人もそうです。そして現在に至るというところですかな。今のあの子たちは立派なメイドであり、ポラリス様の世話役です。ポラリス様の持ち前の明るさと優しさもあって、すぐ打ち解けましたよ。」


ふとポラリスの方を見ると何かをもぐもぐしながら両手でピースしてる。

初対面では想像もつかない姿にクルックスはとうとう失笑する。

アルデバランもそれに釣られ口元を押さえ上がった口角を隠す。

タダカズは謎にピースを返している、見えてないというのに。


「ここだけの話、一番気難しかったのが穏やかに見えるマイアなのですよ。噛みつかれたり、口汚く罵声を浴びせられたときはさすがに驚きましたねぇ~。」


ボソッとアルデバランが言うとクルックスもタダカズも驚愕した顔を浮かべる。「あらあらぁ~」とか言ってた子が?信じがたいなと目を合わせて言う。


「クル男、あの子は怒らせたらきっと怖いぞ。」


「だな。」


「ちょっろ二人とも~、マイアはとーってもいい子なんらよ~!」


何やら呂律の回っていないポラリス、その顔は赤みを帯びているようだ。


「っ!ポラリス様?貴女お酒を?」


珍しくアルデバランが慌ててるようだ、聞く話によればポラリスは飲酒してもギリギリ問題ない歳だそうだが。おそらく普段は飲まないのだろう、みるみるうちに真っ赤になっていった。


「らぁってタラカズさんがすんごくおいちそぉに飲んでるんらもん…気になるじゃないのぉ~あはははぁ…。」


「ポーラちゃん、梅干しみたいになっちまってまあ!」


「言ってる場合かへべれけ野郎!ポーラ様、水飲んで。」


クルックスに出された手つかずの水をポラリスに差し出した。

ポラリスはぐびぐびと一気に飲み美味そうに息を吐く。


「えへへぇ、クルさんすごぉい、つおいとは聞いてらけど分身もできるらんれぇ~へへへへ。」


「できんわ!おいタダカズ、酒を取り上げるんだ!」


「ヘィア!!」


思わず語気が荒くなるクルさんことクルックス。それに気圧されてかタダカズはすぐさまグラスとボトルを取る。


「不覚、アルカ様やミザール様に『きっとあの子も弱いから飲ませぬように』と釘を刺されていたというのに何という失態…。」


アルデバランは顔を押さえて溜息をついている。

そんな執事長殿にかまわずポラリスはケラケラ笑っている。


「おちゃけって楽しいんらねぇぇぇ!ヒィーヒヒヒ!」


「俺の主は酒乱と…。」


クルックスは頬杖をつき呆れた目でポラリスを横目で見る。

そもクルックスは技が鈍るから不要という理由で飲酒や喫煙は一切してこなかった。こういった宴の席でも例外ではないようで飲んでいるのはひそかにケラに頼んでいたアイスコーヒーであった。


「酒乱じゃねえもん!おみゃあも飲めコラ、タココラ。」


取り上げたはずの酒をなみなみとグラスに注ぎクルックスの方へ迫るポラリス。


「なっ!アンタどこから!?」


「隠し持ってたんだよぉ!私の酒が飲めないってかぁ?」


口元にグラスをぐいぐい押し付けるポラリス嬢、その光景はアルハラする上司そのものだった。


「アルさん!止めてくれませんか!?俺じゃ加減が…。」


「あぁ、私は執事失格だ…こんな簡単なことすら。」


「いつまで落ち込んでるのこの人!?」


「じゃタダカズでもいい!はよ引きはがして!」


「Zzz…」


「あー終わった。」


もはやクルックスに味方はいなかった、そして…。


「はぁい!ぐいーっと」


わずかに空いた唇の隙間に度数の高いコニャックが注ぎ込まれる。


初めて口にする酒の味はクルックスにとって最悪だっただろう。

そしてその酔い方も、人間はアルコールが入ると本性が出ると言うがクルックスはというと…。


「俺だってなぁ…普通の家庭に普通に生まれてりゃ酒も音楽も楽しんでたはずなんだよおおお!!」


泣き上戸+ネガティブ促進といった具合だ。これはひどい。


「わかるわかる、もう遠慮せず飲みなしゃれ!ひへへへ…。」


「うん飲む。」


今度はワインだろうか、ポラリスによってグラスに注ぎこまれた赤い液体をクルックスはグイっと流し込む。


「体に消えない傷はつくし、お姉ちゃんは出て行っちゃうし、頑張って闘ってもブーイングが鳴りやまない…なぁんのために生きてんのぉー!?俺はさァ!」


「クルしゃんおもしろぉ!もっと飲ませ…」


「はいお嬢様そこまでですよぉ。」


静止してポラリスの口に水を流し込んだのは1番おっとりしているマイアだった。デザートが出来上がったようで3人のメイドが人数分の皿を持ってきた。


「…なにこれ地獄?」


食卓を囲む魑魅魍魎と化した人物たちにドン引きするエーレ。


「エーレちゃんお冷お持ちしてぇ~。」


慌てずマイペースに仕事をこなすマイア。


「み、皆さん!とりあえず落ち着きましょうか?」


酔ったタダカズやポラリスの背中をさするケラ。


「…死にたい。」


水を飲み、我に返ったクルックスがテーブルに突っ伏して呟く。人生でこんな醜態は晒したことなかったからだ。


「んぇ?みんなどしたの?酔ってんの?なんか頭がギンギンする。」


ポラリスも我に返るが自分がした所業は忘れているようだ。

この方に酒を与えてはいけない、クルックスもアルデバランもそう思うのであった。


「さて、私は片づけを手伝いますからデザートをお楽しみください。」


立ち直ったアルデバランが慣れた手つきで食器やグラスを回収していく、それと同時にケラが各々の席にデザートを置く。


「お待たせしました!自信作です!」


「ありがとうケラちゅわん。」


タダカズもようやっと目を覚ましたようだ、元気なケラの声にピンと背を伸ばし姿勢よく座りなおした。


「ポーラ様、タダカズ。俺なんか変なこと言ってた?」


クルックスが珍しく青ざめてそう言う。


「ん?知らんな、俺寝ちまってたみたいだしさ。」


「私も記憶が曖昧でねぇ~。」


幸いなことに二人にクルックスの醜態はばれていないようだ。クルックスは安堵し「ならいい。」と言って差し出されたデザートに向き直る。


「にしても綺麗な盛り付けだなぁ、食べるのがもったいないくらい。」


「んだな、ケラちゃん!これなんて名前なの?」


「えっと、プリンセストルタと言います!北の国が発祥で、お祝い事に食べられるそうです!今日は私たちにとって特別な日ですからね!」


満面の笑みで応えてくれるケラ、その姿にタダカズは締まりのない顔を晒している。


「そっか!そうだよ、めでたいよな!俺たちのポーラちゃんが光を取り戻した日だもんな!ありがたくいただこう!」


「はいっ!お口に合うと嬉しいです、では私は厨房仕事に戻りますので何かあれば申してくださいね!!」


「は~い!」


ポラリスが返事をする。クルックスは軽く会釈し、タダカズは待ちきれんとばかりに手をもう合わせてる。


「「「いただきます。」」」


息の合ったあいさつと共に運ばれたケーキを口に運ぶ。


「「「うまい!!(おいしい!!)」」」


3人の声がシンクロして屋敷のダイニングに響き渡る。

若きメイド3人はその声を聞いてガッツポーズをした。


「やった!」 「…ふふっ。」 「よかったわねぇ~。」


アルデバランカメラを取り出し、ケーキを楽しむ3人、それを見て喜ぶメイド3人を撮った。そして大事そうに飾ってある夫婦の写真に目を向ける。


「アルカ様、そしてミザール様。見えていますでしょうか?私はこの幸せを命尽きるその日まで守り抜いていきます。」


左胸に手を当て宣誓するかのように誓うアルデバラン。その目は決意と希望に満ちていた。なぜならそう、今日という日は…。



          北極星がふたたび輝いた日だから。


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