夢見る刻、地獄の現実
「おーい、千善ァ。長ーい厠だったなぁ?」
「ちょっと色々あってな。」
「ふぅん?あんだけべろんべろんになってたのになんかスッキリしてんな?」
「なんか酔いも覚めてる感じ?」そう言うと友人である男は遊女の膝に頭を乗せた。遊女はコロコロと笑いながら彼の頭を撫でる。
「悪いがオレは帰らせてもらうぞ。」
「え?もう?」
「お前は好きなだけいていいぞ。ホラ。」
千善はそう言うと金の入った袋を渡した。これだけあれば遊女の一人は買える金だ。
「千善ちゃんありがとー♡それじゃ、オレは夢を見に行くとしますかねぇ。」
「勝手にしろ。それじゃあな。」
千善は店を出ようとしたその時だった。「あ、あの!」と声をかけられたのである。そこにいたのは雅楽付きの端女の娘であった。
「お前は雅楽の...」
「お花と申します。皇家の方とは知らずご無礼な態度を...」
「いや、気にするな。お前は雅楽を守ろうとした。だろう?」
「...私、雅楽様には幸せになってもらいたいんです。」
お花はそう言うと一つの手形を渡してきた。
「これは?」
「雅楽様に逢うための手形です。これがあれば雅楽様と逢う事が出来ます。料金は月末に一気に払っていただく形となります。よろしいですか?」
「あぁ、分かった。...お花、雅楽に伝言を頼んでも良いか?」
「伝言、ですか?」
「あぁ。"金曜、逢えるのを楽しみにしている"と。」
「分かりました。」
「それじゃあ、これで。お花もまたな。」と言うと千善は店を後にした。
「雅楽。新しい客はどうだ?」
楼主和武は雅楽の元へと訪れ、千善の話しをし始めた。
「はい楼主様。とても優しい香りを纏った方でした。」
「雅楽。前のように"父さん"とは呼んでくれないのかい?」
「...楼主様は楼主様ですから。」
「まったく。母親にそっくりで頑固だな。」
「!母さんは?!」
「安心しろ。と言いたい所だが、毎日のようにお前さんを思っては泣いている。」
和武がそう言うと雅楽は顔を暗くした。そして音もなく静かに涙を流した。
「...親子揃って綺麗な泣き顔だ。しかしあまり泣いてくれるなよ?お前さんらの涙は男を狂わせる。」
和武はそう言うと雅楽を布団の上に押し倒した。そして首筋に口を滑らせると着物をはだけさせ...そのまま一夜の欲望の世界へと入り込んで行った。この時だけは"親と子"では無い。"楼主と遊女"と言う関係性故、雅楽は抗う事が許されないのであった。ーあの人は、千善様はどんな風に触れてくるのであろうか。そう思いながら、目の前の男の欲望を受け止めるのであった。




