運命との出逢い
side千善
こんなの騙し討ちだ。ただ、酒を飲みに行かないかと誘われたから素直に着いてきたと言うのに。まさかその行き先が遊郭だとは。
「...帰る。」
「まーて、待て待て!なんで帰ろうとする?!」
「お前と違って遊郭に頼らなきゃいけない程困ってはいないからな。」
「千善ちゃん酷い!別に女を買う為に来たんじゃねぇよ。今は楽しく飲み食いするだけでも良いんだから。な?男だけで寂しく飲むより華があった方が良いだろう?」
「...それはまぁ、そうだけども。」
「と、言う訳で、ジャーン!花街一の遊郭"金糸雀"!」
「随分と高そうだが...。」
「いやぁー、ご馳走様です!」
「...ハァ。お前って奴は。」
そうだ。こいつはこう言う男だった。まぁ、来てしまったものは仕方がない。今日の所は仕方なく奢ってやるか。喜ばしい事に金に困った事はない。どんなに湯水のように金を使おうとも、金は湧いて出てくる。財閥の長男として生まれさせてくれた神様には感謝しなくては。そうして、店の中に入ると、流石は花街一の遊郭を謳うだけある。豪華絢爛とはこの事を言うのだろう。店の人間がお座敷へと案内すると、美味そうなメシと酒が運ばれて来る。そして美しく着飾った遊女が数名入ってきてお酌をし、芸妓を披露する。そうしてどれくらいの時間が経ったのだろうか。気が付けばべろんべろんに酔っ払ってしまっていた。
「...ちょっと厠に。」
「行ってらー!」
ふらふらとお屋敷を後にし厠へと向かった。そして用を足すとお座敷に戻ろうとする。...あれ?どっちだ?どっちから来た?暫く歩き回ると一際目立つ赤い扉が現れた。何だこれは?酔っ払っているせいで好奇心が勝り、周りに人がいないのを確認すると、扉を開けた。するとそこには地下へと続く階段が姿を見せた。吸い込まれるかのように、何かに導かれるかのように、地下へと足を踏み入れた。階段を下って行くと、蝋燭に灯された一つの牢が現れその中に人影が見えてくる。
「あ、あの...。」
思わずその人影に声をかけると、その人影はシャランと髪飾りの音を立て此方の方へと振り返ってきた。
「...もしかして、お客様ですか?」
その声は甘い飴玉をコロリと転がしたかのように甘美な物で、思わず聞き惚れてしまった。
「あの...?」
「あ、いや、すまない。道に迷ってしまって...。」
「ふふっ。こんな所へ迷い込んでしまうなんて。」
「...近くへ行っても?」
「来てしまったものは仕方がありません。牢の中には入れませんが、それでも良ければ。」
その返答を聞き、牢へと近付くと人影が明確になり、姿が顕になった。その姿を見ると思わずゴクリと息を飲んだ。何故ならあまりにも美しいからだ。...まるで絵画で見る天の使いの様だ。
「...お前、名はなんと言う?」
「僕の名前は雅楽と申します。あなた様は?」
「オレは皇 千善。」
「皇様。」
「いや、千善で良い。」
「では、千善様と。...何だか優しい香りがします。」
「そう言うお前...雅楽は甘い匂いがするな。」
「それは...オメガですから。」
「オメガにしては匂いが薄いな。」
「...。」
「あ、いや、すまない。」
押し黙ってしまった雅楽に謝罪すると、雅楽は「いえ。大丈夫です。」と答えた。
「雅楽はここで客をとっているのか?」
「はい。...ですがそれ程客はとってはいないのです。」
「?それは一体どういう?」
「僕、高いんですよ。だから、買いたくても買えないらしいのです。」
「...それならオレが買っても問題無いか?」
「え?」
雅楽は思わずと言った風に聞き返してきた。
「今日は確か...金曜だったな。それなら毎週金曜、オレがお前を買う。」
「良いな?」そう力強く言うと、雅楽は頷くしか無かったようだ。"雅楽を手放すな"。身体中の細胞がそう訴えて来ているかのようであった。




