婚前挨拶
そこから千寿の仕事さばきは怒涛の物であった。いち早く仕事を終わらせるのに全身全霊を注ぎ、気づけば翌日の分も仕事を終わらせていた。時刻は丁度終業時間。それまで社長室の応接用のソファーでオレンジジュースを飲んでいた雅に近づくと、背後からそっと抱きしめてきた。
「うわ!千寿さん?!なになに?!」
「いや...。頑張ったから雅を補充しようかと。」
「コホン。兄さま。早く支度をしないと雅さんのご両親をお待たせしてしまいますよ?」
「...それもそうだな。よし。雅行くぞ。」
そう言うと、千寿は雅に手を差し伸べる。
「お手をどうぞ。お姫様?」
「もう!揶揄わないでください!」
そうは言いつつも、雅はその手を取り立ち上がる。さて、これから紅月家へと行くとしようか。千寿はまったく緊張をしている様子がない。寧ろ、雅の方が緊張しているくらいだ。緊張で手が震えている。その様子に気がついた千寿が雅の手を優しく包み込んだ。
「緊張しているのか?オレがいるんだぞ?安心していい。」
「千寿さん...。貴女がいてくれるなら心強いです。」
そう言うと二人は会社を後にした。そして千寿の運転する高級車で紅月家へと向かう。
「そうだ。今更だけど、高校入学おめでとう。今度二人でお祝いさせてくれ。」
「ありがとうございます。すごく楽しみです!」
それを機に車内はシーンと沈黙に包まれた。二人は互いにそわそわとしていて、何を話そうか。どうしたらこの沈黙を破ける?そんな空気になっているところで車は紅月家へと着いてしまった。
「千寿さん。ここがウチです。車は近くにコインパーキングがあるのでそこに停めてください。」
「あぁ、あの右手に見える所だな?」
そして車をコインパーキングへと停めると、二人は歩いて紅月家へと向かう。家に着きチャイムを鳴らすと、中からバタバタと忙しない足音が聞こえてきた。そして次の瞬間、思い切り扉を開け雅の母、琴音が姿を現せた。
「おかえりなさい!雅ちゃん!まぁまぁ!こち他の方が番の?」
「初めまして。天城 千寿と申します。一応天城ホールディングスで取締役をさせていただいてます。」
「まぁ、あの有名な?!なんでまたそんなすごい方が雅ちゃんと...?」
「母さん、立ち話はなんだから上がってもらおうよ。」
そう雅が促すと、琴音は「散らかっていますが...。」と千寿を家の中へと招き入れた。
「雅は母親似だな。瓜二つだ。」
「よく言われます。髪や瞳の色は父親似だけど、顔のつくりは母親だって。」
リビングへと入って行くと、千寿は熱烈なハグで迎えられえた。
「貴方が雅の番ですね!私は雅の父のアレックスと言います!いやぁ、雅にこんな素晴らしい番がいるなんて我々も嬉しいです!」
「いえ、まだ番には...。」
「でもなるんですよね?番!」
アレックスから肩をガシッとつかまれ、逃げられないようにされた。
「もちろん、将来的には番になりたいと思っていますよ。」
「うんうん!それならいいんだ!さぁ、貴方...」
「天城 千寿です。」
「千寿さんも一緒に夕飯を食べて行ってください。妻の料理は絶品です!」
雅も千寿も認められたことに嬉しく思い、楽しく夕飯をいただくのであった。




