紅い華
「雅楽。今日の夜は皇様がいらっしゃる。これが最後の逢瀬になるだろうから一生分楽しむようにな。」
「...はい。ありがとうございます。」
雅楽は嬉しくても素直に喜べないでいた。この身も心も穢れきってしまったからだ。千善と逢わなくなってから体重が10㎏近く落ちた。それにより、大和が子を孕ませようとしてもそれが叶わない。そのため、大和は苛々としていた。
「雅楽様、少しでも食事に手をつけてください...。このままでは倒れてしまいます。」
「...ごめんねお花。どうも食事が喉を通らなくてね...。」
「あと少しで皇様がいらっしゃいます。どうか...」
「大丈夫だよ。僕は遊女だからね。お客様の事はしっかり楽しませてみせるよ。」
そういう雅楽の瞳に光は宿っていなかった。その瞳に映るのは絶望のみ。やがて時間が経ち、夜になったようだ。地上につながる階段から"カツンーカツンー"という足音が響いてきた。
「雅楽様、皇様です。」
「お花。鍵を開けたら誰も地下に来ないように見張っていてくれるか?」
「?かしこまりました。」
千善とお花がそうやり取りするのを聞きながら、雅楽はどこか遠くを見つめていた。そしてお花が地上へと戻ったのを確認すると、千善は雅楽の元へと歩み寄った。
「久しいな、雅楽。逢いに来れずすまなかった。」
「...!!かずささまぁ...!!」
「話しは全て聞いた。そこで、だ。」
「?」
千善は懐からナイフを二本取り出した。
「千善様?これは...?」
「お前が誰かの物になるなんて耐えられない。お前が誰かの物になるくらいならお前と共に地獄へ落ちたい。」
「...千善様...。ぼくも、僕も貴方様以外の物になるくらいなら、貴方様と共に地獄でー。」
二人はそう言うと、強く強く抱き合いながら深く熱い口づけを交わした。そして最後に熱い瞳で見つめ合うと、ナイフを握り合いお互いの心臓の上にナイフを当てた。
「地獄で逢おう。」
「地獄で幸せの時を送りましょう。」
そうして二人は真っ赤な華を互いの胸に咲かせたのであった。
朝になり、お花はいつも通り二人を起こしに行こうと地下への扉を開けた。すると、濃い血の匂いが漂ってきた。まさかと思い、いそいで地下へと降りると抱き合いながら深い眠りにつく二人の姿があった。そこにはまるで大きな紅い華が咲いているかの様であった。
「雅楽様...。皇様...。やはり、そちらの道を選んだのですね...。」
あちらの世界ではどうか、お二人で仲良くお幸せに...。お花は手を合わせ、そう願うのであった。




