食欲の誕生日
雅楽の興味はあっちに行ったりこっちに行ったり。先程買った肉の串焼きもぺろりと平らげ、次はあれが食べたい、あの店は何だ、等々。雅楽の興味が尽きることはなかった。千善は喉が渇いたな、と思い雅楽に声をかけた。
「雅楽。少しばかり休憩に茶屋にでも入らないか?」
「?茶屋、ですか?僕まだまだ大丈夫ですよ!」
雅楽はそう言うと現れることのない力こぶを見せて来た。
「...それは?」
「力こぶです!僕体力には自信があるんですよ!」
「...なんかお前がそう言うとやらしい意味に聞こえるな。」
「千善様!!」
雅楽は失礼な事を言う千善にぽかぽかと殴り掛かった。が、全然痛くも痒くもない。可愛らしい猫パンチだ。
「冗談はさておき。オレは少し喉が渇いた。茶屋に行けば団子も食べられるぞ?」
「!それは誠ですか?!」
今日一日で知った雅楽の一面。それは食いしん坊だと言う事だ。一体この細い身体の何処に入るのだろうか?そんな疑問を持ってしまう千善であった。そして、思わずその細腰を掴むと、「ひぁ!」と声が上がった。
「かーずーさーさーまー!!」
「い、いや、すまない。あまりにもよく食うものだからその細い身体の何処に入っているのかと思って...。」
「腰を掴む必要はないじゃないですか!!」
雅楽は思わずぷりぷりと怒り出した。千善はこれは早い事機嫌を直してもらわなければ、と思い再び茶屋の話しをし始めた。
「雅楽、あんころもちも付けよう。それでどうだ?」
「...つ」
「え?」
「あんみつ!も付けてくださいまし!」
これまた可愛らしいおねだりである。「付けないわけがないだろう!!」と千善は心の中で叫んだ。
「わかったわかった。あんみつでもみたらしでも好きなだけ食べるといい。」
「流石千善様!大好きです!」
なんともまぁ、現金な少年だろうか。...そうだ、今此処にいるのは"遊女"の雅楽ではなく、"ただの少年"の雅楽である。そして今日はそんな彼の誕生日。思いっきり楽しませてやらねばならない。そう思うと、千善の心に火がついた。先ずは茶屋に行こう。そうしたら次はやけいの綺麗に見える場所にでも連れて行ってやろう。今日は満月で星もたくさん出ているに違いない。きっと雅楽も気に入るであろう。その瞳が輝くところを見たい。そう思いながら茶屋の暖簾をくぐった。
「店主。二人だが入れるか?」
「へぇ!もちろんです!」
店主はそう言うと二人を席に案内した。そして雅楽は、「みたらし3本、あんころもち2個あんみつとお抹茶で!」と元気よく注文をした。もう、聞いただけで腹いっぱいである。
「千善様?食べないのですか?」
「オレは茶が飲めればいい。雅楽は誕生日なんだからオレの事は気にせず思う存分食べるといい。それに、オレはお前が幸せそうに食べているところを見ているだけで幸せだ。」
そう言った千善に「今のセリフはずるいです。」と顔を真っ赤にする雅楽であった。




